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日本郵政の「民営化実施計画」に銀行業界からブーイング。郵貯、簡保は今も強い?
2007.05.10 更新
*このコーナーでは、『日本の論点』スタッフライターや各分野のエキスパートが耳寄り情報、マル秘情報をもとに、政治・経済・外交・社会などの分野ごとに近未来を予測します。

 10月にスタートする郵政民営化を前に、日本郵政(グループの持ち株会社に移行)による「実施計画」が明らかになったが、ただちに全国銀行協会から「市場が受入可能な規模にまで縮小するのが前提だ」と横槍が入った。マスコミ各紙は全銀協・奥正之会長(三井住友銀行頭取)のそうした談話を大きく報じるとともに、「西川郵政は民営化の本旨を外すな」「拡大路線に疑問がある」などの社説を相次いで掲載した。3年前を彷彿とさせる横一線の合唱ぶりだ。

 日本郵政公社の事業は、この10月から持ち株会社の日本郵政に加え、ゆうちょ銀行、かんぽ生命保険の金融2社、それに大多数の職員の受け皿となる郵便事業会社、郵便局会社の5社体制に引き継がれる。その日まであと5カ月と迫った4月末、日本郵政の承継計画が総務省に認可申請され、将来のあるべき姿と考えるグループの中期計画が明らかとなった。それによると、5社全体の純利益(一般企業の最終利益に相当)は初年度末の2150億円から、金融2社が株式上場する4年後の2011年度末には5870億円に拡大するとしている。三井住友銀行(預金66兆円)の半期の純利益が1836億円(06年度9月中間決算)だから、これを上回る利益規模を想定している。

 計画の内容をみると、収益を生む中心である郵貯の預金残高は民営化初年度の188兆円から11年度末には164兆円に減少する。残高を伸ばして収益拡大を図るのでなく、住宅ローン、カードローン、変額年金保険などこれまで扱ってこなかった新規業務の取り扱い、さらには預け入れ限度額(現在の郵便貯金は1000万円)の撤廃などで生産性を高める方策をとる。

 一方、同じく収益の柱となるべき簡易保険も同様に規模を縮小しながら効率を高め、独自性を追求しながら収益性を高める計画のようだ。11年度末の総資産高を、民営化直後の112兆9000億円から91兆円に減らすものの、直営81店舗は営業職員約1000名で法人営業に特化する。

 全体に民業圧迫の世論に配慮しながらも、株式公開による民営化の完全実施へつなげるねらいから利益確保を強く意識した計画といえそうだ。しかしながら、これらの計画は本当に、全銀協が危機感を抱くほどの「民業圧迫」につながるのか。実際の計画達成には多くの困難が予想される。その一つが、分社化することによる求心力低下の問題だ。会社発足前にして、営業をめぐるグループ内の鞘当が早くも始まっている。郵便局会社の変額年金保険の販売を巡って利害衝突が表面化したのだ(日経金融新聞07年5月1日付)。変額年金保険とは、契約者が支払う保険料を市場で運用し、運用成績次第で将来受け取る年金額が変わる金融商品。日本郵政では05年10月に始めた投資信託に次ぐ手数料ビジネスに育つと見て現在、生命保険会社から取扱商品を公募している。郵便局会社では08年5月にも販売に乗り出す方針だが、これに困惑しているのが「かんぽ生命保険」。民営化の後はこれまで扱えなかった新商品も開発したいと意気込んでいるのに、肝心の販売部門が次々に他社の商品を扱うようになったのでは立つ瀬がないからだ。

 一方、すでにして赤字である郵便事業は言うに及ばず、過去においては利益を生む中心だった郵貯や簡保の現状も経営的には厳しさを増している。まず、郵貯だが、預金残高は主力の定額貯金の不振から減少に歯止めがかからない。01年度には250兆円近くあったものがすでに200兆円を割り込んでいる。現在、収益の基盤がこれだけ落ち込んでも利益が出ているのはゼロ金利政策の賜物だが、これから金利が上がっていく中で、かつての定額貯金に代わる商品はまだ開拓されていない。また住宅ローンなどの貸付業務も、ノウハウの蓄積がないままの見切り発車となれば、軌道に載せるのは容易でない。

 かんぽ生命保険はさらに厳しい。06年度末の保有契約高は1年前に比べて6%減の157兆円で、8年連続の減少。同年度の新規契約件数は238万件と前年度にくらべて21%減である。新契約は減った当座は経費削減につながる面もあって、利益圧迫に即つながらないが、将来的にはボディーブローのように効いて、大きなダメージとなる。この新契約の保険金額を1998年度と2005年度で比較すると、98年度の18兆円にたいして05年度は8兆円と半分にも達していない。主力の養老保険が低金利時代の顧客のニーズにあわず、代わりの新しい商品も開発しきれないまま、低迷を続ける状態がつづいているのである。

 郵便局会社が乗り出す変額保険は投資信託に続くリスクの高い投機性商品である。昔の郵便局のイメージで、善良な田舎の老人が何もわからず手を出すなど、考えたくない光景だ。

(青山和樹 あおやま・かずき=「日本の論点」スタッフライター)



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