*このコーナーでは、『日本の論点』スタッフライターや各分野のエキスパートが耳寄り情報、マル秘情報をもとに、政治・経済・外交・社会などの分野ごとに近未来を予測します。
FX(外国為替証拠金取引)によって得た利益を申告せず、脱税容疑で告発される事件が相次いでいる。対象者は、主婦などのいずれもごくふつうの一般的な個人投資家だが、利益はそれぞれ2〜3年間で数億円にのぼる。株取引や先物取引の場合には、個々の取引内容を証券会社が税務署に提出しなければならないことになっている。FXでは、まだそうした仕組みが整備されていないため脱税の温床になっていると指摘されている。
だが、それより関心をそそられるのは、個人が短期間に数億円も稼げてしまうという事実だろう。脱税報道をきっかけに、あわててFXに参入した個人投資家もいるはずだ。ところが、為替相場は先週後半までの円安基調から一転、円がドルやユーロをはじめ各国主要通貨に対して急激に上昇した。脱税どころか、この数日間で大損失を出した投資家も少なくないだろう。
そのからくりはどうなっているのか。よく「投機的」といわれるFXだが、かならずしもそうとはいえない。たとえば1ドル=120円のとき、銀行で1万ドルの外貨預金をするには120万円が必要になる(手数料等は考慮せず。以下同)。しかしFXなら、取引会社に証拠金を預け入れれば、その何倍もの金額の取引が可能になるのだ。この倍率を「レバレッジ」といい、仮にこれが10倍なら、12万円の証拠金で1万ドルの売買ができることになる。ただし、レバレッジの上限は取引会社によって異なるが、投資家はその範囲内で倍率を自由に設定できる。極端にいえば、120万円の証拠金で1万ドルを取引する「レバレッジ1倍」も可能だ。これなら、為替リスクは外貨預金と変わらない。それでも手数料の安さや毎日発生するスワップポイント(金利差益)、24時間いつでも取引できる流動性などを考えれば、外貨預金より安全で有利な金融商品であるとさえいえる。
ところが、最近は取引会社間の顧客獲得競争が激しくなり、レバレッジの上限を引き上げる会社が増えている。3〜400倍に設定している会社もあるほどだ。仮に100倍としても、120万円の証拠金で100万ドル、つまり1億2000万円相当の取引が可能になるわけだ。このレバレッジでドルを買った場合、為替が1円円安に動くだけで100万円のプラスになる。120万円の元手で100万円の利益だから、まさに暴利である。ここ数年続いている円安基調の波にうまく乗れば、たしかに数億円を稼ぎ出すことも不可能ではなかった。
だが、同じ条件で1円の円高に振れば、今度は100万円の損失になり、証拠金の大半が消えることになる。実際には、それ以前に取引会社によって強制終了され、損失が確定する。ただ金額が大きいだけに、確定を避けたいと思うのが当然の心理だろう。そのためには、証拠金を積み増さなければならない。しかし、その後で思惑どおり円安に反転すればいいが、さらに円高に進めば雪だるま式に損が膨らみ、さらなる証拠金が必要になる。こうして雪ダルマ式に莫大な損失を抱えることになるのである。
とはいえ、低金利の銀行預金や伸び悩む株価などいまの日本の投資環境を考えれば、FXに参入する個人投資家は今後も増えるだろう。なかには3〜400倍のレバレッジにチャレンジする猛者も出てくるはずだ。ただ、これからの為替動向については、金利差を背景に円安に戻るという見方もあれば、米国の景気減速懸念からドル売りが進むという見方もある。ちなみに現在(8月1日)の1ドル=118円台前半という値は、今年3月につけた高値115円台前半と、同6月の安値124円台前半のほぼ中間点だ。いい換えれば、ここからはどちらに転んでもおかしくないということだ。リスクを回避するにはレバレッジを下げたほうがよいということになるが、それこそ自己責任の問題であるということになろう。
(島田栄昭 しまだ・よしあき=『日本の論点』スタッフライター)
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