*このコーナーでは、『日本の論点』スタッフライターや各分野のエキスパートが耳寄り情報、マル秘情報をもとに、政治・経済・外交・社会などの分野ごとに近未来を予測します。
衆院予算委員会が9日から始まった。焦点の海上自衛隊によるインド洋での給油活動の継続の是非をめぐる与野党の攻防は、民主党の小沢一郎代表による「米軍のアフガニスタン戦争に対する自衛隊の給油活動は、国連決議に基づかない他国の自衛権行使への参加であって憲法違反である」との違憲論で幕を開けた。
これに対し福田首相は「非戦闘地域での活動であり、憲法違反ではない」と反論するとともに、給油活動が日本の国益にかなう点を強調した。だが、小沢氏は日本の国際貢献のあり方を巡る持論を同日発売の雑誌「世界」に発表、この中で「国連安全保障理事会の決議に基づく活動は自衛権を超えたもので、たとえ武力行使を伴っても憲法9条の制約を受けない」と、論議をエスカレートさせた。これに対し、政府・与党側が逆に「憲法9条に抵触する」と反論に出るなど憲法論議にまで発展している。
国会での論戦を聞くかぎりでは、テロ対策特別措置法の継続にしろ新法にしろ、憲法と国連決議問題の高いハードルが待ちうけているように見える。しかしながら、別な議論も当然に存在する。たとえば、国際法が専門の小寺彰東京大学教授は、「国際法上、軍艦は公海上で民間船舶を対象に海上犯罪の防止や制圧のため海上警察活動を実施できる」とした上で、「現在テロ特措法に基づいて自衛隊がインド洋で給油活動をしているのは、武器の流入阻止などを目的として活動する、まさに海上警察活動に従事する外国軍艦に対してであり、武力行使に従事する外国軍艦に対してではない。したがって、その軍艦への給油は、安保理決議の有無にかかわらず許され、各国の判断だけで可能である」(日本経済新聞、9日付〈経済教室〉)としている。要するに、海上保安庁が公海上で自国の船舶の安全確保のために活動することと変わりなく、大上段の議論は必要ないというのである。
海上自衛隊が任務についている海域は、ペルシャ湾と紅海の出入り口からアラビア海(インド洋西部)にいたる場所で、ペルシャ湾からパキスタン沖にいたるこの海域は、日本のタンカーなどの海上交通路にあたるのは誰でも知っている。省エネが急速に進んだといっても、日本はいまも総エネルギーの50%を石油に依存していて、その石油の90%をこの中東から調達しているのである。
1970年代の二度にわたる石油危機を教訓に、“脱中東依存”の政策を進めた時期があった。実際に73年に77.5%だった中東への原油依存度が、87年には67.9%まで減少した。しかし、その後、原油価格が低位安定した時期が長く続き、一般の商品並みに、安いという理由で、また需要が増えたのだ。さらに、中国、インドネシアといった日本に近い産油国が原油の輸出国から輸入国へと転落したことで、再び中東依存が高まったのである。
ちなみに2006年の日本における石油の総輸入量は15億4468万バレルで、そのうちサウジアラビアが4億4859万バレル(総輸入量の30.0%)、UAE(アラブ首長国連邦)が3億7814万バレル(同25.4%)で輸入国の上位5位までが中東に集中している。
ホルムズ海峡が閉鎖されるなどの事態が起きれば、日本への主要な原油供給が途絶するのはいうまでもない。2004年4月には、日本郵船の超大型タンカー「TAKASUZU」(高鈴、28万トン)がペルシャ湾のイラク・バスラ沖で実際にテロ攻撃を受け、間一髪で撃沈をのがれている。石油積み出しターミナルが小型の高速ボートによる自爆テロの標的となり、係留中の「高鈴」が危機に見舞われたもので、多国籍軍が銃撃戦の末、死者まで出してこれを阻止した。日本郵船の関係者は「タンカーは危険地域でも行かねばならない。ペルシャ湾内もできれば海自艦に守ってほしいが、それができないからインド洋で補給活動をしていると理解している」(産経新聞9月27日付)と語っている。
彼らがそれでも使命感をもって「行かねばならない」とまでいうのは、彼らが石油エネルギーの油送は、日本経済の生命線のひとつだと考えているからにほかならない。私たちが日々必要としているエネルギー――その輸送航行路であるシーレーンを守るための海上防止活動への支援は、反テロの旗をかかげた国際社会への賛意のメッセージであるだけではなく、まさに国益を守るための行動なのである。
もし、インド洋のシーレーンが絶たれ、日本への石油供給がストップすれば……高止まりしている原油価格はさらに上がり、ガソリン価格もさらに上がることになる。それは当然、ほかの生産・消費に響く。2年前に、米国の元中央情報局(CIA)長官らが行った「石油の衝撃波」と称するシミュレーションによると、世界の石油産出国三箇所で事件が続発した場合、原油価格はバレル150ドルに高騰、数週間で、先進国では最初に日本がメルトダウン(溶解)すると結論づけている。海上給油問題はつとめて日本経済の問題のひとつでもあるのだ。
(青山和樹 あおやま・かずき=「日本の論点」スタッフライター)
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