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幻の大連立――挫折の先の民主党
2007.11.07 更新
*このコーナーでは、『日本の論点』スタッフライターや各分野のエキスパートが耳寄り情報、マル秘情報をもとに、政治・経済・外交・社会などの分野ごとに近未来を予測します。

 11月2日、福田康夫首相(自民党総裁)と小沢一郎民主党代表の党首会談で、両党の大連立が協議された。大連立構想は小沢氏の側から持ちかけたとされる。なんとしてもインド洋における海上自衛隊艦船による給油支援活動を再開したい福田首相は、これを容認し、政策協議に入る合意までしたという。小沢氏は意見集約を図ろうと、いったん民主党に持ち帰ったが、意に反して緊急役員会では独断専行だと拒否された。メンツを重んじる小沢氏は4日夕に記者会見し、「不信任を受けたに等しい。けじめをつける」として代表を辞任する考えを表明した。あわてた民主党執行部は小沢氏を慰留。結局、紆余曲折の末、小沢氏は辞意を撤回し、代表の座に留まることになった。

 党首会談の大義名分は、テロ対策特別措置法の期限切れによって給油支援活動が中断したのを受け、新テロ特措法の成立に民主党の協力を求めることだった。10月30日と11月2日の2回、両者は二人だけで「新しい政治の動かし方」(福田首相)について突っ込んだやりとりをした。席上、まず自衛隊の海外派遣の原則を決める恒久法をつくるための政策協議機関を新設し、ゆくゆくは大連立に踏み切ることで合意がなされた。また、小沢氏の副総理格の入閣など、閣僚の配分についても話し合われたという。

 実現すれば、衆参両院でねじれ状態にある政治情勢を一変させる可能性があった。当初、小沢氏は、菅直人代表代行、鳩山由紀夫幹事長には、事前に大連立を協議することを示唆していたので、党内を説得できるだろうと踏んでいたふしがある。しかし、結果は「選挙による政権交代が筋であり、参院選で示された国民の民意を裏切ることになる」、「密室の交渉では党内の理解を得られない。大政翼賛会だ」などと各役員から非難が相次いだ。

 大連立とは、競合関係にある二大政党が組んで政権をつくることで、典型的な例は、ドイツの女性首相、メルケル氏による政権だ。2005年11月、総選挙で勝利したキリスト教民主・社会同盟(CDU・CSU)が過半数に達せず、野党の社会民主党(SPD)と39年ぶりに大連立を組んだ。財政再建や雇用、年金改革のためだった。ドイツではこれまでに大連立によって付加価値税や所得税の最高税率の引き上げを実現している。このほか、1929年の大恐慌に対応するため英国の保守党、労働党、自由党が組んだマクドナルド政権(31年)があり、挙国一致内閣とも呼ばれた。日本では、戦前の軍人出身の首相による挙国一致内閣の例(斎藤実、岡田啓介政権)がある。戦後では大連立にはいたらなかったが、保革連立政権(片山哲、芦田均政権)、自民・社会・新党さきがけが連立した村山富市、橋本龍太郎政権がある。

 大連立をした場合の両党のメリットとしては、民主党は、参院選で公約した年金や子ども手当て、農家戸別所得補償などの政策が実現しやすくなり、自民党は、新テロ特措法の成立とともに、給油再開の可能性が高くなる。また、今後も爼上にのぼるであろう憲法改正や安全保障、社会保障など基本政策でも合意しやすくなる。反面、少数意見は無視され、国民には別の選択肢が示されないというデメリットが指摘される。

 今回の党首会談を仕掛けたとされている読売新聞会長兼主筆の渡辺恒雄氏は、4日朝のTBS番組で「ねじれ国会で、立法がマヒした状態のままでは日本がつぶれてしまう。国際的な孤児にもなりかねず、小沢さんが無任所の副総理で入閣して民主党も責任を分担するべきだ」と大連立の必要性を強調していた。同席した中曽根康弘元首相も「国家と国民のために大連立に踏み切るべきだ。このさき5、6年何も決められないと、世界から馬鹿にされる」と同調した。

 大連立が話題になりだしたのは、7月の参院選で自民党が大敗、民主党が参院で第一党になり、野党が参院を制してからである。衆院は与党が三分の二超を占めているものの、予算関連法案や一般の重要法案が参院で否決されれば、衆院で再議決という手しかなくなり、もはや強行採決は世論の不評を買うだけだ。このピンチを打開するために自民党内に浮上したのが、大連立を呼びかけ、民主党をいっきに政権に取り込もうとの狙いである。いっぽう、小沢民主党にも、候補者不在の空白区が90近くあり、衆院選で自民党を過半数割れに追い込むには、まだまだ力不足というお家の事情があった。小沢氏が自民・公明の連立政権を切り崩すには、あえて与党の懐に飛び込み、「民主党自ら政権運営の実績を示すことが、将来の政権奪取の近道だ」と考えて不思議はなかった。

 しかし、今回の小沢氏の“一人相撲”によって大連立の可能性は限りなく遠くなった。89年以降、日本政治は連立政権が普通になっており、政党同士の合従連衡はこれからも続かざるを得ない。その意味では、失敗はしたものの、今回の福田・小沢会談で、連立政権づくりの垣根は一段と低くなったと見て良い。ただコンセンサスを得るためには、いきなり大連立でなく、政策による部分連合を通じて、重要政策において歩み寄る慣習をつくりあげていく必要があることがわかった。

 一方、「小選挙区制のもとでは大連立は厳しい」(麻生太郎前幹事長)との指摘がある。選挙区では同じ政党から一人しか立候補できないため、大連立となると、選挙で自民、民主党の間で対立した論争ができなくなるからだ。しかし次の総選挙の時期はさほど遠くないとの見方があり、自民党としては、いずれ「現在の行き詰まった状況を打開する」(福田首相)方法を考えざるを得ない。いまだに両党に部分連合を模索しようという声があるのもこのためだ。

 小沢氏は「恥をさらして」代表に復帰した。今回の「代表辞意表明・慰留」劇では、小沢氏に頼らなければ何ともできない“寄り合い所帯・民主党”の情けない姿があぶり出された。なにより、小沢氏が指摘した「民主党は政権能力を疑われている」という事実がそれを物語っている。いい方を変えれば、だからこそこれからも政界再編に向けての騒動は十分に起こり得るのである。当面、民主党は掲げた看板にそって、総選挙――政権交代の道を模索するだろう。しかし、自民・民主の間にかつてのように決定的な対立軸が生まれない限り、政策協定であれ、部分連合であれ、おそらくは民主党は歩み寄らざるを得ない局面が来よう。立法をこれ以上停滞させることはできないからである。

(松本泰高=まつもと・たいこう 政治ジャーナリスト、『日本の論点』スタッフライター)


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