*このコーナーでは、『日本の論点』スタッフライターや各分野のエキスパートが耳寄り情報、マル秘情報をもとに、政治・経済・外交・社会などの分野ごとに近未来を予測します。
今年11月に行われる米大統領選挙へ向け、早くも始まった民主・共和両党の候補者指名争い。北東部ニューハンプシャー州で1月8日に行われた民主党の予備選挙では、ヒラリー・クリントン上院議員がバラク・オバマ上院議員を僅差で破り、アイオワに続く二連敗は辛うじて免れることができた。
昨年来、民主党ではヒラリー候補がオバマ候補やエドワーズ候補を大幅にリードしているといわれ、24の州で予備選・党員集会が行われる2月5日の「メガ・チューズデイ」で大勢が決してしまうのでは、との予想もあった。しかし1月3日に行われたアイオワ州の党員集会では、当初劣勢が伝えられていたオバマ候補がクリントン候補を猛追、ついにはヒラリー候補を得票率で9%引き離して勝利、ヒラリー候補はエドワーズ候補の後塵をも拝する結果となった。その理由は、「経験」を掲げるヒラリー候補より「変化」を掲げるオバマ候補に無党派層が軍配を挙げたからだと言われる。そこで、今後の大統領選、特に民主党予備選の鍵を握るのは無党派層の動向だ、という読みが生まれた。
アイオワ州党員集会の結果が出た後に行われたニューハンプシャー州の世論調査でも、やはりオバマ候補の優勢が伝えられ、中には19%もの差をつける調査もあった。ニューハンプシャー州では、有権者に占める無党派層の割合が44%にも達する。過去、アイオワとニューハンプシャーで連敗したにもかかわらず最終的に指名を獲得した候補者は、ヒラリー候補の夫であるビル・クリントン前大統領しかいない。無党派層を惹きつけたオバマ候補が連勝し、ヒラリー候補は撤退に追い込まれるのではとさえ予想されたことも頷ける。しかしヒラリー候補は女性票の掘り起こしに成功、またサブプライム問題に端を発する経済不安がいまだ続くなかで、ヒラリー候補の経済政策に期待を示す声も反映され、得票率でわずか2%差ながらも勝利したのである。
年齢的に不利になるといわれながらも、ヒラリー候補(60歳)が前回の大統領選で出馬を見送り、あえて4年後の今回に照準を合わせたのは、「風」に頼らず「組織力」で戦える体制を整えるためであったという。ヒラリー候補にとって今回の「復活」が、体制づくりに成功した結果だとすれば、今後の民主党の候補者指名争いは、「組織力」と無党派層が吹かせる「風」とを巡る争いとしてみることもできる。
一方の共和党側では、当初は5位と低迷していた元アーカンソー州知事のハッカビー候補がアイオワ州党員集会でトップに躍り出た。続くニューハンプシャー州予備選はマケイン候補が制し、一時は撤退もささやかれた状況から、やはり復活を遂げている。今回は、共和党にとって「逆風」の中の選挙だといわれている。また共和党を支える保守陣営も、候補者を絞れずにいる。民主党は現時点で2候補の争いに絞られたといえるが、共和党では、まだしばらくは混戦が続きそうだ。今後も「変化を求める無党派層」が鍵となり、両党の候補者選びで接戦あるいは混戦が続くようだと、取り沙汰されている第3の候補が出現する可能性が高まるかもしれない。
ニューハンプシャー州の予備選は、候補者にとって大事なのは世論調査の数字よりも実際に投票所へ足を運んでくれる有権者だということを、あらためて示したのではないだろうか。「語る(talking)」よりも「行動(action)」が大事だ――ヒラリー候補は、アイオワ州での敗戦後にそう語ったが、この言葉は候補者だけでなく有権者にも当てはまるといえよう。
(中村克彦 なかむら・かつひこ=社団法人アジアフォーラム・ジャパン研究員)
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