*このコーナーでは、『日本の論点』スタッフライターや各分野のエキスパートが耳寄り情報、マル秘情報をもとに、政治・経済・外交・社会などの分野ごとに近未来を予測します。
屠蘇気分もさめやらぬ1月4日の初出勤の日、ニューヨーク市場における原油価格の初の1バレル100ドル台乗せのニュースが飛び込んできた。2日のニューヨーク・マーカンタイル取引所の原油先物市場で代表的指標であるウエスト・テキサス・インターミディエート(WTI)の2月物が昨年12月31日より4.02ドル高い100ドルを付け、最高値を更新したのだ。
原油価格は06年に60ドルを超える水準だったが、07年は年初にいったん50ドルまで下げたものの、以後はほぼ右肩上がりの一本調子で上がり続けた。昨年秋以降100ドル台乗せは時間の問題とされてきた。その背景は、米国のサブプライムローン(信用力の低い個人向け住宅融資)に始まった金融市場の混乱だ。2007年8月に金融機関の損失が表面化してから原油相場は5カ月で4割上昇している。この間、投資ファンド、政府系ファンド、年金などの資金が株式、債券などの金融資産から原油、金、穀物など現物資産に投資の軸足を移したのである。こうした事実を裏付けるかのように、同日の米株式相場は大幅続落、ダウ平均の下落率は1.7%となり、米国景気の後退懸念が強まるとともに、ドル相場も下落、1ドル=108円台をつけた。
投機資金流入の主な要因は、中国、インドなどの需要増が極めて堅調だからで、原油需給の緩和余地がすくないとみられたことによる。国際エネルギー機関(IEA)によると、08年の世界石油需要は日量8770万バレルで、前年比200万バレルも拡大する見通しだ。07年の需要増が100万バレルだったのに対し、倍増である。この4割が中国の需要増で、07年の日量720万バレルが08年は800万バレルまで増加する見込み。これに対し、OPEC(石油輸出国機構)の原油生産能力は日量95万バレル増にとどまっており、供給が不安視されている。
加えて今回は、産油国のひとつナイジェリアの政情悪化が原油需給の新たな逼迫を予想させた。米国の景気後退懸念によるドル安も投機筋の割安感を生んで、買いの勢いを促進させたと見られている。
原油価格高騰というと、日本では二度にわたるオイルショックの経験から、誰もが当時の混乱を思い出すだろう。しかし、現在は当時と比べ、脱石油・省エネ(エネルギー効率の改善)が格段に進んでおり、例えば、実質ベースで1億円のGDPを稼ぐために必要な原油量は、現在では55キロリットルと、1980年当時の106キロリットルの半分近くに低下している。また、省エネを進めた結果、現在の日本の原油需要量は極めて安定しているとともに、高い水準の石油備蓄量が確保されている。「価格上昇」という面からは、今回の円高によって輸入原油価格の上昇幅が抑制されていることも、価格高騰の与える影響を小さくしている。ちなみに第2次石油危機の際に1バレル40ドルを超えるレベルまで原油価格が上昇した1980年当時のドル円のレンジは、202円95銭〜264円だった。
原油価格が時間をかけて上がり、一定の高原状態にあるとき、日本経済は無資源国でありながら、それを逆手にとるように耐久力を高めてきた。02年から昨年までの価格上昇は、それに近いものだった。世界的にも、中東の資源国経済が成長し、資源マネーが米国の赤字を埋めるというプラスの循環が働いていたのである。
しかし、1バレル100ドルの時代を迎えて、別の不安が生まれている。そうはいっても原油価格の高騰が多かれ少なかれ石油輸入国に悪影響を与えることは、間違いないからだ。日本では原油価格上昇に対する耐久力が高まったとはいえ、原油価格がこのまま高止まりする、あるいはさらに高騰するようなことがあれば、あらゆる分野に波及し、経済への打撃も大きなものになる可能性がある。昨年の中小企業の倒産が1万社を越え(帝国データバンク1月17日発表)、なかでも運送業などガソリン価格値上げの影響を直接受ける業界の倒産事例が目立ってきている。
米国の景気も後退にむかいつつある今日、日本や世界の景気が深刻な打撃を受けることになれば、直後に原油価格は急落するであろう。となれば資産全般に価格下落の大波が及び、それが恐慌状況をつくり出す可能性もないとはいえない。
(青山和樹 あおやま・かずき=フリージャーナリスト、「日本の論点」スタッフライター)
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