*このコーナーでは、『日本の論点』スタッフライターや各分野のエキスパートが耳寄り情報、マル秘情報をもとに、政治・経済・外交・社会などの分野ごとに近未来を予測します。
平成20年度予算案と予算関連法案をめぐって与野党の対立が激化している。例年の年度末の攻防と決定的に異なるのは、「ねじれ国会」になったことで参院の審議が野党優位で進んでいることだ。このままでいくと、肝心の予算関連法案である租税特別措置法改正案などが年度内の3月31日までに成立せず、財政法が求めている歳入と歳出一体の原則が崩れ、予算執行に支障が生じることになりかねない。このため、福田首相は14日、これまでかたくなに拒否してきた政府案の修正を与党に指示し、野党側の同調を求め始めた。
与野党攻防の焦点は、道路特定財源の「一般財源化」と「暫定税率の廃止」である。政府は、この先10年間に59兆円の道路特定財源を投入する道路整備中期計画を進める方針で、そのためには、現在、本来の約2倍に上積みしているガソリン税など5つの道路関係税の税率(暫定税率)をさらに10年延長する租税特別措置法改正案を、暫定税率が失効する3月末までに成立させなければならない。これに対し、民主党はじめ野党側は、「道路特定財源制度が1954年にスタートしてから半世紀余りたった。すでに役割は終えており、一般財源にすべき。暫定税率も74年から実施され、財源不足を補う必要はなくなっており、廃止すべきだ」と主張している。
まず予算の成立が危うくなった経緯を振り返ってみよう。平成20年度予算案は、2月29日に、与党が圧倒的多数を占める衆院を通過、参院へ送付された。自民党はじめ与党側が参院への送付時期を2月29日にしたのは、参院で予算案審議が遅れても、新年度直前の3月29日には自然成立するという憲法の規定を意識したものだった。しかし、予算関連法案は、自然成立の対象外だ。そこで与党は1月29日に「つなぎ法案」を議員立法で提出、財政金融、総務の両委員会で強行採決したのである。これは、憲法59条で規定されている「60日ルール=みなし規定」の適用を考慮したものだ。すなわち、法案が参院で審議されなくても60日を経過すれば、法案は否決されたとみなされ、衆院で三分の二以上の賛成があれば再議決が可能なのである。
野党側はつなぎ法案は「歳出入一体が原則の財政法に違反する」などと激しく反発、本会議阻止のピケを張るなどして抵抗した。結局、国会の混乱を憂慮した両院議長が調停に乗り出し、つなぎ法案は撤回され、「徹底した審議を行ったうえで、年度内に一定の結論を得るものとする。税法について各党間で合意が得られたものについては、立法府において修正する」ことで合意した(1月30日)。ところが、その後、予算案と予算関連法案が野党欠席のまま強行採決されたことから、参院で野党が反発、2週間にわたり国会審議が空転した。この結果、審議日程が窮屈となり、いまのままでは政府案が今月中に成立する見通しがなくなったのである。
政府の租税特別措置法改正案には、ガソリン税の上積み分の維持だけでなく、中小企業投資促進税制や登録免許税の特例、オフショア市場における利子非課税などの減税措置も含まれている。民主党は、政府案からガソリン税に関する部分だけを削り、独自に道路特定財源制度改革関連法案として参院に提出した。つまり、年度末(3月31日)に政府案が失効してもガソリン税だけが引き下げられ、他の暫定税率に影響を与えないようにするためだ。
この民主党案が参院で可決されて衆院へ送付されれば、国民生活の混乱を回避するため、与党は民主党案を成立させざるを得なくなるというわけだ。あわてた政府・与党は、政府案と民主党案は「同一的法案にあたる」との見解を主張し、参院が民主党案を可決すれば、政府案が否決されたものとみなし、衆院で60日ルールを適用、政府案を成立させることを検討し始めた。しかし、内閣や衆参両院の法制局ではこうした与党の見解に否定的で、新たな与野党攻防の焦点だ。
暫定税率が廃止されると、地方自治体が直接徴収できる自動車取得税や軽油取引税などの税収(年間2兆6000億円)がなくなり、地方はそれだけ財政に影響を受ける。このため自治体が暫定税率廃止に反対する大合唱となった。
このため政府・与党は、税の徴収を前年度の法律によって行うなどの緊急措置を検討するとともに、政府案の修正で譲歩して野党の協力を求めることに方針を転換した。修正のポイントは、(1)道路整備中期計画の期間短縮、(2)一般財源化の範囲拡大、(3)暫定税率の延長期間の短縮――になる見通しだ。しかし、野党は「足して2で割るような修正案に乗ることはない」(鳩山民主党幹事長)とあくまで暫定税率の廃止を貫く構えを崩しておらず、自民党内にも道路族議員らが大幅修正に抵抗しており、17日から本格化した与野党折衝は難航気味だ。
最悪のケースでは、政府案が未成立のまま、60日ルールが適用できる4月下旬まで混乱状態が続くとみられている。民主党は、租税特別措置法案が失効し、ガソリン税が25円安くなるときに備え、独自の対策をまとめた。そのひとつが、地域やガソリンスタンドによって値段の違うガソリンが売られるという混乱を避けるため、3月中に仕入れたガソリンを4月1日以降に販売する場合は、製油所にいったん返品したとみなして暫定税率分の納税を免除するものだ。いっぽう、こうした事態を打開するため、与党内では再び衆参両院の議長のあっせんによって修正協議の場をつくるとのプランが浮上してきている。
予算案と予算関連法案をめぐる激しい攻防の背景には、野党が年内早期の解散、総選挙に追い込みたいとの思惑があるのに対し、福田首相、与党側は総選挙はできるだけ先送りしたい考えがある。07年の参院選以後、株価は下落、円高は止まらない。世界経済が乱高下を繰り返している現在、日銀総裁さえ決まっていない。世界からは「JAPAiN」(痛みの日本)とやゆされている。与野党が数をたのんで政局に血道をあげていては、日本売りがさらに加速するだけだ。影響は確実に国民生活にふりかかる。双方が譲り合い、世界の中の日本を意識して、国民のためになる知恵を早く出すべきだ。
(松本泰高=まつもと・たいこう 政治ジャーナリスト、『日本の論点』スタッフライター)
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