*このコーナーでは、『日本の論点』スタッフライターや各分野のエキスパートが耳寄り情報、マル秘情報をもとに、政治・経済・外交・社会などの分野ごとに近未来を予測します。
円高ドル安傾向に歯止めがかからない。最近でこそ1ドル=101円前後で小康状態を保っているが、ここから円安に戻ると予測する専門家は少ない。むしろ90円〜80円を目指すという声すらある。
周知のとおり、この主な原因は、サブプライムローンの焦げつきに端を発する米国経済への信用不安拡大にある。これによって世界中でドル売りが加速し、いわゆる円キャリートレードの逆回転によって円が買われた。さらにFRB(米国連邦準備制度理事会)による政策金利の積極果敢な利下げ(07年8月の5.25%から08年3月には2.25%へ)が、この流れに拍車をかけている。いまや、ドルを借りて高金利通貨を買う「ドルキャリートレード」が行われているほどだ。
したがって、けっして円が強くなったわけではない。それを如実に示しているのが、「実質実効為替レート」だ。これは複数の他国通貨と円の為替レートについて、それぞれの貿易量とインフレ率を加味して指数化したもので、変動相場制に移行した1973年3月を「100」として毎月日銀が算出している。それによると、08年3月時点の数字は104.2(数字が大きいほうが円高)。85年のプラザ合意以降、06年9月まで一貫して100以上をキープし、95年には160台をつけたことを考えれば、現在は「円高」とはいえない。ドルに対して相対的に強いだけで、その他の通貨に対しては依然として弱いのである。
ではどの通貨が強いのかいとえば、現在のところいうまでもなくユーロであろう。現在の1ユーロ=1.5ドル台、1ユーロ=160円台は、いずれも過去最高値の水準だ。これほど"ユーロ買い"が進んだ要因は、まず通貨としての安定性にある。ユーロ導入国は、今年1月に新たにキプロスとマルタが加わって15カ国、人口約3億2000万人に達している。世界GDPに占める割合は約2割。経済圏としてはドルに匹敵する規模である。それだけ通貨としての安定性・流動性が確保されているということだ。
それに昨年夏からの信用収縮局面において、FRBが前述のとおり政策金利を断続的に利下げしているのに対し、ユーロの金融政策を担うECB(欧州中央銀行)は、昨年6月に利上げして以来ずっと4%に据え置いている。圏内の景気動向が堅調な証左だろう。同時に、FRBが政策目標として「物価の安定」とともに「雇用の最大化」などを掲げているのに対し、ECBは「物価の安定」の一点に絞っていることも大きい。ユーロ圏では、雇用対策はECBではなく、各国政府が担う。極論すれば、ECBはインフレの警戒だけしていればよいということだ。
おかげで、各国の外貨準備は、ドルを減らしてユーロの割合を高める傾向がある。IMFによると、加盟国の07年末時点での外貨準備高に占めるドルの割合は63.9%、同ユーロは26.5%。99年3月時点ではドルが71.1%、ユーロが18.1%だったから、いかにドルが凋落し、ユーロが台頭しているかがわかるだろう。まだドルには及ばないものの、"第二の基軸通貨"としての期待は大きい。
だがここへ来て、ユーロの雲行きがいささか怪しい。米財務省の3月の発表によると、サブプライムローン問題による金融機関の損失総額は約2000億ドルで、そのうち750億ドルは欧州の金融機関であるという。また為替上昇のデメリットも出はじめている。ユーロ圏内各国の貿易相手国は、約6割が圏内といわれているから、その意味で米国や日本と比べて為替の影響は少ないといえる。しかし、圏外との貿易がないわけではない。主要な相手国である米国の景気後退とも相まって、輸出産業へのインパクトを回避できそうにないのである。
実際、IMFは4月に発表した世界経済見通しで、08年のユーロ圏の成長率予想を1月時点の1.8%から1.3%に引き下げた。07年の成長率が2.6%だったから、大幅な減速である。その一方で、ご多分に漏れず原油価格や食糧価格の高騰の煽りを受け、圏内のインフレ率は3%を超えている。日米と同様、スタグフレーションの様相だ。
ここで問われるのが、ECBの舵取りである。景気上昇局面なら、物価上昇に合わせて利上げできたはずだ。しかし減速局面で利上げすれば、さらに景気を冷やすことになりかねない。それでも「物価の安定」だけに着目し、利上げに踏み切れるのか。
しかも日米の当局と比べてやっかいなのは、対象が15カ国におよぶということだ。国ごとに景気の温度差がある中で、どこに基準を合わせて政策判断を行うのか。また各国にとってみれば、一国として当然持っているはずのふたつの経済政策手段、つまり財政政策と金融政策のうち、後者をECBに奪われているということでもある。その判断が国の意図にそぐわなければ、国民の反発を買う。最悪の場合、ユーロ脱退という選択だってあり得ないことではない。逆にこの局面を乗り切ることができれば、ユーロは"第二の基軸通貨"としての地位を確固たるものにできるだろう。
(島田栄昭 しまだ・よしあき=『日本の論点』スタッフライター)
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