*このコーナーでは、『日本の論点』スタッフライターや各分野のエキスパートが耳寄り情報、マル秘情報をもとに、政治・経済・外交・社会などの分野ごとに近未来を予測します。
物価上昇が止まらない。今年2月、総務省の全国消費者物価指数(CPI/除く生鮮食品)は10年ぶりに前年同月比1%上昇、3月も同1.2%上昇を記録した。品目別の内訳(3月)を見ると、ご多分にもれず灯油(前年同月比29.2%上昇)、ガソリン(同19.0%上昇)など石油製品の上昇が激しく、全体の物価上昇に対する寄与度は0.69に達している。次いで寄与度の高いのが生鮮食品を除く食品(0.39)で、特にスパゲッティの26・6%上昇、チーズの22.6%上昇などが突出している。
問題なのは、これらの物価上昇が需要増によるものではないということだ。周知のとおり、世界的な資源価格の高騰に起因している。つまり、値上がり分は資源高に吸収されるだけだから、国内企業の利益が上乗せされるわけではない。まさに「悪い物価上昇」だ。しかも当面、この状況が変わる気配はない。
おかげで各企業は、消費者の買い控えや中間マージンの圧縮により、軒並み収益を悪化させている。国内最大の利益を稼いできたトヨタ自動車でさえ、9年ぶりに減収減益予想(09年3月期)を打ち出した。円高や北米市場の減速という要因もあるが、鉄鉱石と石炭の急騰による鋼材価格の上昇に、さしものトヨタも太刀打ちできないようだ。あるいは08年版中小企業白書によると、原油価格の上昇によって収益を圧迫されている中小企業は9割を超え、またその上昇分を価格にまったく転嫁できないとする企業は6割を超えている。
ではこの状況に、個人はどう対処すればいいのか。単純に考えれば、物価上昇に見合うだけの収入の上昇が必要だ。収入の現状維持は、実質的に貧しくなることを意味するからである。そうならないためには、大きく3つの方法が考えられる。第一は言うまでもなく、労働収入を増やすこと。だが現実的に、企業収益が悪化する中で賃金の上昇は期待しにくい。実際、07年の一人あたりの現金給与総額は前年比0.7%減だった。そこで第二の方法は、金利収入を増やすこと。だがこれも、未だに低金利が続く中では難しい。4月末に日銀がまとめた「展望リポート」は、08年度のCPIの上昇率見通しを昨年10月時の0.4%から1.1%に上方修正する一方で、経済成長率の見通しを同2.1%から1.5%に下方修正した。これにより、日銀は政策金利を当面据え置くとの見方が強まっている。銀行の普通預金金利も当面は現状のままだろう。
だとすれば、当面は第三の方法、すなわち「投資」の道を模索するしかないかもしれない。「貯蓄から投資へ」と政府が掛け声をかけて久しいが、実践している人はまだ少ない。昨年5月に内閣府が行った特別世論調査によると、株や債券などの証券をいっさい持っていない人、さらに今後もいっさい持つ予定のない人は、いずれも7割を超えている。昨年夏からの株価の大幅下落を見て、「やはり持たなくてよかった」と思った人も多いことだろう。
だが、もう少し冷静に考える必要がある。従来のデフレ局面であれば、たとえ低金利でも貯蓄に意味があった。しかしインフレになれば、貯蓄では追いつけない。その点、最近の東証一部上場企業の平均配当利回りは、ほぼ1.5%以上で推移している。個別で見れば、2%を超える銘柄も少なくない。これはまさに株価下落の影響でもあるが、企業が株主獲得のために配当性向を高めているためでもある。東証一部上場企業の配当金総額はここ数年で大幅に上昇し、今年3月期は6兆6000億円(新光総合研究所調べ)に達しているという。
賃金が伸びないのは、業績もさることながら、企業が労働分配率を引き下げているためだ。その分を配当金に回していると考えればわかりやすい。厳しい経営環境に晒されている以上、この逆転は難しい。ならば、自らが株主になって配当金を獲得し、減らされた賃金の一部を奪い返す、という発想があってもいいのではないか。少なくとも、株を買う=楽をして儲ける=品格がない、などと考えているようでは、“インフレ貧者”になるだけだ。
(島田栄昭 しまだ・よしあき=『日本の論点』スタッフライター)
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