*このコーナーでは、『日本の論点』スタッフライターや各分野のエキスパートが耳寄り情報、マル秘情報をもとに、政治・経済・外交・社会などの分野ごとに近未来を予測します。
11月の大統領選挙が、マケインとオバマの戦いになることはほぼ間違いなくなった。世界におけるアメリカの影響力を探ろうとするとき、まず初めにチェックするのが、アメリカの対中東政策の動向である。具体的には、イラク駐留米軍はどうなるか、だ。歴史的に見て、過去、アメリカ大統領選挙で外交・安全保障政策が勝負を分けるような争点となったことは少ない。だが、2004年に引き続き、イラクとアフガニスタンへの米軍駐留が継続されるなかで行われる今年の選挙では、少なくともこれらの問題に関して、信頼するに足る政策、実現可能な計画を示すことなしに大統領に当選することは困難だ。
両者を安全保障政策の点から比較したとき、マケインが圧倒的に有利との見方が一般的だ。ベトナムでの捕虜経験を持ち、かつ連邦議会上下両院で25年にわたる経験を持っているからだ。この点、オバマがパキスタンのテロリストへの武力行使を公言したり、イランやベネズエラの指導者と「無条件で直接対話する」と述べたりするのは、自らの経験不足を示す例として、しばしば引き合いに出された。しかしマケインの側も、イラクに今後100年駐留する可能性があると述べたことで批判を受けており、現在、安全保障政策では、両候補が互いを「無責任(irresponsible)」「無謀(reckless)」「無邪気(naive)」と非難し合う状況が生まれている。
選挙期間を通じて、オバマは経験の浅さを「変化(change)」の可能性に置き換えてアピールし、マケインは長くワシントン政治の中にあって、なお孤立を怖れない「直言(straight talk)」を売りものにしているが、最終的には両者とも、現実的な外交・安全保障政策を示すことになろう。そして、その兆候はすでに見えている。それはもっとも党派の亀裂が深い、イラク駐留計画においてである。
イラクからの撤退、いわゆる「出口戦略」をめぐっての共和党と民主党の対立は、目下膠着状態にある。イラク戦争の正当性を揺るがすような問題が噴出した2004年頃からは、即時撤退論に支持が集まり、2006年の中間選挙で民主党が上下両院を制することにつながった。しかし、2007年1月にブッシュ政権がペトレイアス将軍をイラク駐留軍司令官に任命し、増派を決断したことで潮目が変わり、以降、増派作戦の成果があらわれてくるにしたがって、駐留継続論が勢いを増していった。今年の3月に行われたマリキ政権主導によるテロリスト掃討作戦は、一時的に死傷者数を急増させたものの、全体として治安が改善していることを証明することになった。それは、『ニューヨーク・タイムズ』など、イラク駐留政策に批判的な主要メディアが、イラク問題の扱いを目に見えて減らしていることからも明らかだ。批判のネタが切れたといってもよいだろう。
3月のある世論調査では、「1年以内の撤退」を支持する回答が最多の46%であったが、「1〜2年」とする意見(22%)と、「2〜4年」は必要とするという回答(14%)をあわせて考えたとき、アメリカ国民の大半が、実際、即時撤退が可能だと思っているわけではないことがわかる。同時期の別の調査では、約6割の国民が、「アメリカはイラクで勝利する」と考えているとの結果が示された。事実オバマは、4月の上院外交委員会で、ペトレイアス司令官が大規模な撤退は困難だと述べたことに理解を示した。また、マケインも5月に行った演説で、次期大統領の任期が切れる2013年1月までにイラクで勝利し、駐留部隊の大半を帰還させることが可能だと述べている。イラク情勢のゆくえ、世論とメディアの動向を睨みながら、両候補は、今後どのような主張をぶつけ合うのか。11月の選挙の時点では、互いの差はニュアンス程度になっている可能性もある。
シンクタンクのレベルでは、すでに党派を越えた政策提言の動きが進んでいる。アメリカン・エンタープライズ研究所(AEI)が、3月にイラク問題に関するフォーラムを開催した。このフォーラムには、増派作戦の下書きを担ったといわれるフレデリック・ケーガンAEI研究員とともに、民主党系として最初に増派作戦の効果を認めたマイケル・オハンロンと、ケネス・ポラックが参加している。「リベラルの殿堂」とも表されるブルッキングス研究所に属するこの2人が、ブッシュ政権に多くの人材を送り込み、「ネオコンの梁山泊」などといわれたAEIでイラク駐留計画を語ったことは注目に値する。
両シンクタンクの連携は個人のレベルにとどまらず、すでに経済政策に関する研究センターを共同で立ち上げるなど、きわめて緊密だ。ケーガンの実兄でありネオコンを代表する存在であるロバート・ケーガンは、マケインの外交顧問を務めている。オハンロンとポラックはヒラリーに近いが、オバマの外交顧問であるスーザン・ライスも、ブルッキングスに籍を置いている。2009年に誰が政権を担うことになっても、両シンクタンクとその出身者が、外交政策にかなりの影響を与えると考えておくべきだろう。
(堀 圭一 ほり・けいいち=社団法人アジアフォーラム・ジャパン研究員)
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