*このコーナーでは、『日本の論点』スタッフライターや各分野のエキスパートが耳寄り情報、マル秘情報をもとに、政治・経済・外交・社会などの分野ごとに近未来を予測します。
来年の5月21日から裁判員制度が実施される。この制度は、一般市民が殺人など重大事件の刑事裁判に参加する「参審制」で、アメリカのように陪審員が無罪か有罪かを決める「陪審制」とは異なる。有権者の中から抽選で裁判員に選ばれると、裁判官と一緒に法廷に立ち会い、無罪か有罪かだけではなく、死刑や無期懲役などの量刑まで決定してゆく。裁判員に選任されると、正当な理由がなく拒否することはできない。裁判員に選ばれる確率は、67人に1人といわれている。鳩山邦夫法務大臣は、就任以後のわずか10カ月で計13人の死刑を執行したが、来年の5月からは一般市民の裁判員が死刑と向き合い、刑事裁判の審理に参加しなければならなくなる。
裁判員が審理に加わるのは、殺人、強盗致死傷、傷害致死、危険運転致死、現住建造物等放火、身代金目的誘拐など重大な犯罪の第一審の裁判に限られる。裁判員法では法律家や警察官、司法書士など法律の専門家を選任することを禁じているので、裁判員は法律の門外漢ばかりで構成される。裁判が開始されると、6人の裁判員と3人の裁判官が一緒になって事件に関する証拠調べ、証人や被告人への質問を行う。証拠調べが終わると、裁判員と裁判官で議論を交わし、多数決で有罪か無罪かを決めてゆく。
裁判員の仕事は、「事実の認定」「法令の適用」「刑の量刑」に大別され、裁判官からはそのたびに専門的な説明があり、法令の解釈や訴訟手続きは裁判官が担当することになっている。しかし、果たして法律の素人に死刑などの量刑を判断することができるのだろうか。制度の開始を目前に控え、全国の地裁や法科大学院などで「模擬裁判」が盛んに開かれているが、参加者の多くは法律の専門用語を難しいと感じている。検察側の論告や、弁護側の最終弁論を聞いても、何を質問したらよいのか分からないことが多い。裁判に市民の意見を反映することが期待されるが、実際は裁判官の説明がなければ、評議は一歩も前に進まず、量刑を決める際は、裁判官に“相場”を訊く例が目立つ。裁判官が自分の考え方を押しつけ、評議をリードするのではないかと懸念されているのだ。
裁判官と裁判員が多数決で有罪か無罪かを決定する評決のやり方についても問題がある。裁判員法77条が定める多数決では、たとえ過半数が無罪に票を入れたとしても、その中に裁判官と裁判員の双方が含まれていなければ、無罪判決を下すことができない。裁判員の6人全員が無罪と判断しても、無罪と考える裁判官が1人もいなければ、無罪判決を下すことができないのだ。有罪判決の場合も同様である。市民参加の裁判といっても、本番になると裁判官に主導される可能性が高いのだ。制度開始までついに1年を切ったが、公平な判決を下すことができるのかどうか疑問が残る。
(福本博文 ふくもと・ひろふみ=ノンフィクション作家)
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