*このコーナーでは、『日本の論点』スタッフライターや各分野のエキスパートが耳寄り情報、マル秘情報をもとに、政治・経済・外交・社会などの分野ごとに近未来を予測します。
9月末の米下院による金融安定化法案の否決は、世界各国の株式市場に大きな衝撃をもたらした。とりわけ“震源地”である米国のダウ平均株価は、777ドルの下げを記録。これは2001年の同時多発テロ時の684ドル、1987年のブラックマンデー時の508ドルを抜いて史上最大の下げ幅となった。米国発の金融危機はいよいよ“金融恐慌”の段階に突入した、との声が聞かれた。
だが、本当にそうか。今回の下落を「下げ幅」ではなく「下げ率」で見れば、約7%で、同時多発テロ時とほぼ同じ。あのブラックマンデーの際には約23%だった。1929年の世界恐慌のときには2日で約24%も下げている。これにくらべれば、今回はまだ「大幅下落」の範疇といってよい。それに翌日には、金融安定化法案可決への期待感から、あっさり6割強にあたる485ドルも反騰した。
実際、法案は若干の修正を経て可決成立した。そもそも先の採決で反対票が上回ったのは、政治的パフォーマンスの意味合いが強い。7000億ドル(約75兆円)もの公的資金を、これまで“暴利”を貪ってきた民間金融機関の救済に使うといえば、さしもの金融大国・米国の国民の間に強烈な反発があって当然だ。しかも米下院は、大統領選と連動して改選を控えていた。とりわけ共和党議員にとっては、この法案に賛成することは、党が志向する「小さな政府」に反するばかりか、「ブッシュの経済失政のツケを国民に回す」という印象を与えることになりかねない。だから「自分は反対したのだ」と地元有権者に“言い訳”するために、多くが反対票を投じたのだった。ただそれは、「結局、法案は可決成立する」という前提だったはずである。
そもそも公的資金の投入は、金融機関を救うために行うのではない。政府が金融機関の抱える不良資産を買い取ることで、金融機関を身軽にして信用不安を和らげ、麻痺状態にある金融機関どうしの資金の貸し借りを正常に戻すことが目的だ。それによって、広く経済全体に資金が行き渡るようにするわけである。買い取り価格の設定等の課題は残るものの、早急な措置が必要であることは論をまたない。それは、幹線道路が陥没したとき、どのような理由であれ、何をさしおいても即座に復旧しなければ社会全体が不利益を被るのと同じだ。誰だって「建設業者の利益になるからやめろ」とは言わないはずだ。
90年代の日本は、「国民の代表」を自任する議員たちの“活躍”によって、不良債権処理に苦しむ金融機関への公的資金投入を徹底的に遅らせてきた。その結果、日本にもたらされたのが「失われた10年」である。さすがに米下院はその轍を踏まなかったわけだ。
法案成立後、ダウ平均株価は急落したが、これは実効性への懸念のほか、雇用統計の悪化など実体経済の不透明感によるものと見られている。「まだ対策が足りない」というメッセージだろう。最終的には、金融機関本体への資本増強のため、さらなる公的資金の投入が必要になりそうだ。ただ中長期的に見れば、やはりこれがターニングポイントになるだろう。まだまだ紆余曲折が予想されるものの、やがてはダウ平均上昇→個人消費回復→住宅価格反転→景気再浮上、というバラ色の軌道に乗ることを望みたい。
(島田栄昭 しまだ・よしあき=『日本の論点』スタッフライター)
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