*このコーナーでは、『日本の論点』スタッフライターや各分野のエキスパートが耳寄り情報、マル秘情報をもとに、政治・経済・外交・社会などの分野ごとに近未来を予測します。
週明け10月6日のニューヨーク商業取引所(NYMEX)の原油先物相場は、世界同時不況に対する懸念から4営業日大幅続落し、米国産標準油種WTIの中心限月11月物は、前週末終値比6.07ドル安の1バレル87.81ドルと中心限月としては約8カ月ぶりに90ドル台を割り込んで引けた。(時事通信10月7日付)
ニューヨーク原油先物のWTIが史上最高値の147.27ドルを付けたのは7月11日である。わずか3カ月足らずの間に4割も値を下げたことになる。
年初に100ドルを超えたニューヨーク原油先物相場は、約半年間で40%値を上げたが、最大の理由は機関投資家による市場へのマネーの流入だった。ニューヨーク原油先物市場が創設された83年当時、市場の参加者は、石油会社や航空会社など実際に石油を生産したり消費する会社だった。それが、中国を中心とした新興国の石油需要の増加とドル安を背景に、ヘッジファンドや商品インデックスといった投機ないし投資資金が市場に参入し、市場の8割以上がこれらの資金で占められるようになったために相場の急騰を招くことになったのである。
しかし、今回の原油相場の反落は、短期の荒稼ぎを狙ういわゆる「投機マネー」とは一線を画す「商品インデックス投資」に参入した年金基金などの長期指向の機関投資家の影響が大きかった。この資金はヘッジファンドなどとは運用方法、戦略が全く異なり、これまでリスクの高い商品投資からは距離を置いてきた。しかし最近の商品市場における金融技術との融合によってリスクが低減したこと、長期運用が可能になったことなどの理由から、先物市場への参入を容易にすることとなった。
また株式、債券といった金融商品がインフレやテロ、戦争、自然災害といった経済活動の阻害要因に弱いのに対し、商品価格は、そうしたときに逆に上昇に向かうことから、最近の世界情勢にあった効果的な運用といわれたのも事実だ。
昨年夏以降、世界にじわじわと波及したサブプライムローン(信用力の低い個人向け住宅融資)問題による金融不安を背景に、危機を封じ込めるため米連邦準備理事会(FRB)が昨年来、利下げを重ねた結果、金融緩和による大量のマネーが市場にあふれていた。米国景気の先行きに影がさし、株価も低迷し始めたところで、まさに原油先物相場に出番がやってきたのだった。
しかし、それもつかの間、米国証券大手リーマン・ブラザーズの破綻を受け、米国の実体経済の悪化に対する懸念が顕在化した。原油価格の高騰による需要減退が、先進国、新興国を問わず、拍車をかけたのである。これに先立つ6月に開かれた産油国と消費国の緊急閣僚会合では、サウジアラビアのヌアイミ石油鉱物資源相が、7月から年初比50万バレル増の日量970万バレルに増産すると発表、さらに2009年末には、産出量を1250万バレルに引き上げることを表明、同時にクエートも日量30万バレルの増産を決定した。このとき市場の反応は鈍かった。そしてその後の景気後退とあいまって、市場の心理を冷やしていったのである。
さらに、米国当局による金融株の空売り規制をきっかけとしたドル相場の下落、投機に対する監督強化の動きも価格の反転につながった。
専門家は、短期の投機マネーと投資資金を区別して、原油価格のピークアウト前後の動きを「6月初めまでは、相場の天井は近いと判断した投機マネーによる手仕舞い売りが相場下落を主導したが、その後は手仕舞い売りを続けた投機マネーが、資金投入を続けた投資資金に押し負けた。6月下旬から7月中旬までは投資資金の流入が減る中で、投機マネーが投資拡大に転じたため相場は上昇したが、下旬には投機マネーが再び手仕舞い売りに動き、それに対抗する投資資金が不在だったために相場は急落した」(「週刊東洋経済」8月9日号)と伝えている。
見てきたように、機関投資家による投機は、原油価格を押し上げ、あるいは急落させたが、これは果たして「悪いこと」なのであろうか。原田泰・大和総研チーフエコノミストは、ミルトン・フリードマンの「投機理論」を引いて、「長期的には価格を安定させる働きがあるはず」と説く。「投機家が何かを買い占めればその価格は高くなる。しかし、投機家は、その何かを自分で使うためではなくて、売って儲けるのが仕事である。買い占めて、価格を吊り上げても、売らなければ投機の儲けは出ない。買い占めて価格を上げるのは誰でも出来るが、過去の歴史(日本の商社が銅の投機に失敗して26億ドルの損失を出した例など)を見れば分かるように、上がった価格で売り抜けるのは難しい。(中略)したがって、投機家が損失を被っていれば、投機が価格を不安定化することになるが、通常の投機家は利益を得ているものとすると、投機は価格を安定化することになる」(「エコノミスト」9月9日号)という。
現在の1バレル80〜90ドルあたりというのは、03年ごろまで1バレル20ドル程度で推移し、その後140ドルでピークアウトしたことを考えると、ちょうどその中間である。とすれば、このくらいが安定化した値ということになるのだろうか。
(青山和樹:フリージャーナリスト、「日本の論点」スタッフライター)
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