*このコーナーでは、『日本の論点』スタッフライターや各分野のエキスパートが耳寄り情報、マル秘情報をもとに、政治・経済・外交・社会などの分野ごとに近未来を予測します。
ブッシュ大統領は10月14日、さきに連邦議会が可決した金融安定化法にもとづき、2500億ドル(約25兆円、1ドル=100円で換算)を大手金融機関に資本注入すると発表した。これにより当面の危機は回避されたが、先行きへの不安は依然として大きく、アメリカの次期政権が抱える財政問題はいちだんと悩ましいものになった。
金融危機に人々の耳目が集まった9月終盤、アメリカ連邦議会において、2009年国防権限法が上下両院で可決された。下院で392対39の賛成多数、上院で発声投票による全会一致で可決された予算は、総額6120億ドル。これにはイラクとアフガニスタンにおける戦費約700億ドルが含まれている。法案審議過程では、今後想定される財政悪化を念頭に、国防費に大胆なメスを入れるべきだとの議論があった。しかし、選挙を目前に控えた多くの議員たちにとって、とりわけ重要なのは軍人・退役軍人票を確保することである。よって、約4%の賃金増を含む様々な恩恵措置が盛り込まれたこの法案は、圧倒的多数で両院を通過した。
ただし、このような予算は今年が最後と考えた方がよいかもしれない。金融危機への対応で確実に財政が悪化するなか、国防費に対する抑制圧力がいっそう強まることは間違いないからだ。すでに左派系のある団体は、国防費削減を求める意見広告を大手新聞に掲載するなどの運動を展開し始めているし、下院民主党の有力議員であるジャック・マーサらも、来年度以降は削減が議題となることを示唆している。
しかし当然のことながら、アメリカが財布の紐を締めたとしても、目前の脅威は消えるわけではない。世界はこれにどう対応するのか。
11月4日のアメリカ大統領選挙まで残すところ3週間となった。選挙の帰趨はふたを開けるまでわからないが、この時期、各世論調査で軒並み10%前後のリードを確保している民主党オバマ候補がきわめて有利な立場にあるのは間違いない。選挙結果には全く関係ないが、9月にBBCが世界各国で実施した世論調査では、オバマ候補が49%(マケイン候補12%)と圧倒的な支持を得ている。背景にはブッシュ大統領への反感があることはもちろんだが、すでにブッシュ政権はその外交姿勢を交渉・協調重視に大きくシフトしている。実際にオバマ選対の幹部の一人は、オバマ外交はブッシュ2期目のそれとほとんど変わらないものになるだろうと述べている。その共通点は、「役割分担という名の多国間主義」といってよい。
たとえばNATOは、加盟各国に、国防費を対GDP比2%以上とするよう求めているが、4%超のアメリカ以外でこれを達成しているのはイギリス、フランス、トルコ、ギリシャ、ブルガリアのみである。ブッシュ政権は繰り返し各国に国防費の増額を求めてきたが、オバマ政権の姿勢も(もちろんマケイン政権でも)それは変わらないだろう。
日本の防衛費は約4兆7400億円(08年度)であり、対GDP比では1%にも満たない。アメリカのいわゆる知日派は、党派を超えて日本に増額を求めている。また、国防総省の報道官は最近の会見で、5年間で最低170億ドルとされるアフガニスタン軍増強経費を、現地に戦闘部隊を派遣していない同盟国に負担して欲しいと述べた。該当する同盟国とは、日本と韓国くらいだから、名指しの要求と考えてよい。アメリカの次期政権もやはり同じことを求めてくるだろう。どちらの候補も対日関係を「重視」しているのである。
これまで日本の防衛費をめぐっては、つねに対米協力の是非が問われ、いわゆる「思いやり予算」をどうするかといった内向きの議論が交わされてきた。しかし、イラクやアフガニスタン、さらに北朝鮮といった問題を抱える今日の世界情勢は、日本の国家安全保障戦略をまさに戦略的観点から議論する絶好の機会である。06年当時、日本の閣僚として初めてNATO本部で演説したのは麻生外相であった。民主党の小沢代表は、公党の党首として初めてアフガニスタンに陸上部隊を派遣する意志を示した。近くおこなわれる解散総選挙では、金融問題もさることながら、両党首は、そうした安全保障に対する自らの実績を真剣に訴え、互いに正面から議論すべきではないか。
(堀 圭一 ほり・けいいち=社団法人アジアフォーラム・ジャパン研究員 http://asianforum.jp/)
|