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クリントン国務長官の最初の訪問先が日本だったのはなぜか
2009.02.26 更新
*このコーナーでは、『日本の論点』スタッフライターや各分野のエキスパートが耳寄り情報、マル秘情報をもとに、政治・経済・外交・社会などの分野ごとに近未来を予測します。

 ヒラリー・クリントン米国務長官の就任後初めての外国訪問がアジア4カ国、それも日本を入口に、中国を出口にするような訪問となったのは、どのような意図によるものだったのか。その目的は大きく次の3点に集約されよう。

 @同盟国・日本の顔を立てる、A日本への期待=要求、B中国へのメッセージ、である。オバマ政権の国務長官が、どの国を最初の外遊先として選ぶかについては、政権発足前の段階から周到に準備がなされており、そのキーワードは「意外性」と「効果」だったといわれる。

 国務長官の最初の訪問先にアジアが選ばれるのは、じつに50年ぶりであった。しかもクリントン長官は、一昨年、フォーリン・アフェアーズ誌に発表した外交論文で、米中関係を「世界で最も重要な関係」と位置づけ、日本より中国を重視するかのような発言をしていただけに、日本を最初の訪問国に選んだのは、「意外性」を感じさせるには十分であった。2月17日の日米外相会談の冒頭、中曽根外務大臣が「最初の訪問国に日本を選んでいただいたことは、日本重視の表れ」と歓迎の弁を述べたが、まさに国務省サイドの目論見が奏功したといえる。

 98年のビル・クリントン大統領の「ジャパン・パッシング」によって傷つけられた日本人の心は、クリントン長官が日本の文化や伝統にまで配慮を見せたことによって、かなりの程度、癒されたのではないだろうか。

 また、クリントン長官は、拉致問題に関しても「拉致問題は包括枠組みにおいて、より進展する。だからこそこの問題は、6者協議の一部であるべきだ」と述べ、「拉致問題があるから6者協議が進まない」とするブッシュ前政権との姿勢の違いを打ち出しもした。

 日本の顔を立てたのはこうした配慮だけではない。クリントン長官は、麻生総理に対し、2月24日にワシントンで日米首脳会談を開きたいというオバマ大統領からの招待を伝えた。オバマ政権が、ホワイトハウスへ招待する最初の外国首脳として日本の首相を選ぶという、もう一つの土産を披露し、「意外性」をさらに際だたせたのであった。

 もっとも、アメリカは手放しで日本に好意を示したわけではない。麻生総理に対する招待状は、日本を最初に訪問したことの効果、すなわちアメリカに対する日本側からの誠意と手土産に対する期待=要求が含まれているであったのはいうまでもない。麻生総理がオバマ大統領と会談した2月24日は、オバマ大統領が、アメリカ連邦上・下両院議員に向けて議会演説を行う当日でもあった。

 今回、クリントン長官は、中曽根外務大臣とともに「沖縄駐留海兵隊のグアム移転」と「普天間代替施設建設」を2014年までに完了する「ロードマップ合意」(06年)を、新たに「協定化」して署名した。これによって「合意」は、政府間の公式の約束事になった。このような動きは、日本の次期総選挙後を見越して、日本の民主党に発したアメリカ側の圧力と捉えることもできる。

 クリントン長官の「政治的にどのような将来が控えているにせよ、日本とのパートナーシップをさらに深く、広げていくことを期待する」「責任ある国家は、合意に従うものだ」との言葉に、こうしたアメリカ側の思惑が透けて見える。

 今回、日米両国は、世界的な経済危機に協力して対処していくことでも合意したが、日本が今後、どのような形でその合意を履行していくのか、中国の対応と対比されることも十分意識しておかなければならない。

 日本が最初の訪問国となったことで、中国に「日米同盟の結束」を見せつけたことはたしかである。しかし一方で未曾有の世界的経済危機の中、GDPで、アメリカ、日本に次いで世界3位になった中国が、経済問題が最重要課題になったアメリカにとって、日本に劣らず重要な位置にあることも事実である。アメリカは、オバマ・麻生首脳会談を含め、今回日本訪問によって得た成果が、中国に対してのプレッシャーとなり得ることは十分に計算に入れているであろう。

 今度のクリントン長官の歴訪は、儀礼的な要素を多く含んでいたと評する見方もある。しかし、長官は、日本は「世界における責任ある国家」であり、中国は「演じなければならない重要な役割がある」と、アメリカが両国それぞれに対して強い期待と要求をもっていることをあえて言葉にした。今回の歴訪で得られた成果は、今後、アメリカが日米中のトライアングル関係をどのように位置づけ発展させていくのか、その戦略を構築するうえで、重要な判断材料にするであろうことは間違いない。

(中村 克彦 なかむら・かつひこ=社団法人アジアフォーラム・ジャパン研究部長  http://asianforum.jp/


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