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これからどうなる?−私はこう思う。
「無利子国債」というのはいったい何だ
2009.02.19 更新
*このコーナーでは、『日本の論点』スタッフライターや各分野のエキスパートが耳寄り情報、マル秘情報をもとに、政治・経済・外交・社会などの分野ごとに近未来を予測します。

 にわかに「無利子国債」の発行が話題にのぼりつつある。利子がつかないかわりに、購入金額分の相続税をタダにするという国債だ。まだ政府・与党内で検討が始まったばかりの段階で、具体化・現実化はこれからだが、財源確保の一環として期待する声が少なくない。

 これを「金持ち優遇政策だ」と批判するむきもあるが、それ以前の問題として、国がかならず損をする方法だ、という点も考える必要があろう。たとえば1億円の資産を持った人がいたとする。相続が発生すれば、相続税の税率は30%だから、ざっと3000万円が税金として取られることになる(控除等は考慮せず)。しかし無利子国債を買えば、これがゼロになる。そのかわり利子はもらえない。たとえば現在の新発10年国債の利回り(長期金利)は、約1.3%程度だ。先々の金利は読めないが、かりに10年にわたって同程度で推移したとすれば、13%分、つまり1300万円の利子を放棄することになるのである。個人にとっては差し引き1700万円の得、国から見れば同額の損だ。  あるいは金利が近年の最高水準である2%程度まで上がったとしても、損得の関係は変わらない。簡単にいえば、こうした利益が確定していなければ、個人はこのような国債を買おうとはしないはずだ。つまり国にとっては「肉を切らせて骨を断つ」ぐらいの覚悟が必要な制度なのである。

 この点を踏まえて、こうした政策が必要なのか考えてみよう。「いまは100年に1度の危機だから、とにかく財政出動のための財源が緊急に必要」とか、「眠っている個人金融資産を引っ張りだして活用すべき」という主張もある。しかし、主な買い手として期待される高齢富裕層がどのような資産運用を行っているかはわからないが、少なくとも、全額をタンス預金もしくは自宅の庭の土中に埋め込んでいる人は、そうはいない。またそういう人にかぎって国債に手を出す、とも考えにくい。たいていは積極運用とまではいかないまでも、銀行預金や郵便貯金、あるいは生保に回しているはずだ。

 金融機関としては、昨今のように優良な貸し手がなかなか見つからない以上、主な運用先は国債ぐらいしかない。利回りは低いが、もともと個人からかぎりなくゼロに近い金利で集めた資金だけに、利ざやは稼げる。また国としても、こうして潤沢な資金を安定的に国債に振り向けてくれる金融機関の存在は頼もしいはずだ。つまり、個人金融資産の多くは、すでに国債購入に使われているといっていいのである。となれば、けっしてムダに眠っているわけではないし、わざわざ国にとって不利な条件の国債を発行しなくても、既存のシステムで十分賄えるのではないだろうか。

 それに、日本国債の買い手は国内の金融機関だけではない。いまや世界のマネーが買いはじめているのだ。もともと日本国債の外国人保有比率は5%前後しかなかった。これは米欧の国債が英国を除いて軒並み40%を超えていることを考えれば、極端に低い数字だ。ところが、03年12月の段階では3%だったものが、08年3月には7.2%まで倍増と、上昇傾向を見せ始めた。現在、さらに増えている可能性が高い。財務省が05年から100年ぶりに海外IRを再開した成果ともいえるが、世界の経済情勢とも無縁ではないだろう。

 周知のとおり、一連の金融危機によって世界の投資家は「質への逃避」の動きを強めている。新興国から先進国へ、株から債券へ、債券の中でも社債から国債へ、といった具合である。つまり、“質”の面で頂点に君臨するのは、先進国の国債ということになる。このうち、とくに大規模に発行されているのが米国債と日本国債だから、両者には資金が流れ込みやすい。実体経済・財政状況ともにボロボロ、日本の場合は、かてて加えて政治もボロボロなのにもかかわらず、なお世界の通貨と比較すれば米ドル高・円高であり、長期金利も低水準に抑えられているのは、この“世界マネーの国債買い”のためなのである。もちろん、積極的に買われているというより一時的な逃避先でしかないから、世界経済が上向けば、相対的に日本国債の魅力は低下することになるだろう。だが幸か不幸か、そうした場面は当面先になりそうだ。ならば、無利子国債のような“奇策”を慌てて打つ必要はないのではないか。

 そしてもう一つ、商品設計としても複雑になりそうだ。たとえば「余命○日」と宣告された時点で全財産を無利子国債に投入し、死亡して相続税ゼロが確定した直後に相続人が売りさばく、といったことも可能になるのだろうか。実際に1950年代のフランスでは、ほぼ同様の商品として「ピネー国債」が発行されたが、このようなケースが相次いで税収減が深刻になったために廃止されてしまった。あるいは、期せずして償還後もまだ存命だった場合、相続税の減免は有効になるのか。だとすれば、現在の債券保有者のみならず、過去の保有記録まですべて遡って適用の有無が審査されることになる。いずれにせよ、商品設計が複雑になればなるほど、そこに投入される労力やコストは大きくなる。繰り返すが、そこまでして発行する必要があるのだろうか。

(島田栄昭 しまだ・よしあき=『日本の論点』スタッフライター)


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