*このコーナーでは、『日本の論点』スタッフライターや各分野のエキスパートが耳寄り情報、マル秘情報をもとに、政治・経済・外交・社会などの分野ごとに近未来を予測します。
日本では、長らく専門的な技術分野をもつ外国人労働者は受け入れるが、単純労働に従事する外国人は受け入れない、という政策がとられていた。だが、この建前はここ20年で大きく崩れた。バブル経済の前後から、いわゆる「3K職場」での人手不足が深刻化し、賃金の安い労働力の確保が重要な課題となってきたからだ。
1990年、そうした産業界の要望に応えるようにして出入国管理法が改正され、日系三世のブラジル人を単純作業の労働者として無制限に受け入れるようになった。さらに93年には「外国人研修・技能実習制度」が創設された。名目は、発展途上国へ日本の技術を移転させるための制度だったが、その実態は、とくに中小企業で働く低賃金の外国人労働力を確保するためのものだった。
この制度には労働法令上の“抜け道”があった。在留資格1年目の「研修生」は、労働基準法が適用されないため、最低賃金の半分にも満たない賃金で、長時間の「残業」を強いるケースが続出したのだ。
同制度の受け入れ先は、おもに中小零細企業で、約1万8000社(推計)が利用している。同制度による外国人労働者は、前年比で約10%も伸び、06年は約9万3000人に達した。そのうち7割以上は中国人だった。同制度を悪用した不正行為は全国で多発。労働法令違反で法務省から指導を受けた事業所は、03年の412カ所から06年1209カ所、07年1907カ所と増加の一途をたどっている。
外国人の労働力に期待を寄せているのは、産業界だけではない。介護施設も、慢性的な人材不足に悩んでいる。24時間体制の過酷な労働に加えて、国が介護報酬を引き下げたことで低賃金になり、ますます人材の流入を遠ざけることになったからだ。
08年8月、日本とインドネシアの経済連携協定(EPA)に基づいて、インドネシアの介護福祉士候補101人が来日することになった。介護現場の人材不足を補う対策のひとつである。候補者は、いずれも看護師の資格をもち、来日後は、経済産業省の外郭団体などの施設で日本語や生活習慣などの研修を受けた後、翌09年1月から24都道府県の特別養護老人ホームなど51施設で働いている。
しかし、滞在中のインドネシア人たちが日本で働きつづけることができる保障はどこにもない。日本で介護士として働くためには、4年間の滞在期間中に日本語で出題される介護福祉士の国家試験に合格しなければならないからだ。受験には3年以上の実務経験が必要とされ、しかも受験のチャンスは1回しかない。試験に落ちたら帰国しなければならないのである。
日本人でも半数が落ちる介護福祉士の国家試験は、彼らにとっては高いハードルだ。まして慣れない異国で重労働の合間に、漢字を覚えることなど至難の業である。介護の仕事に嫌気がさす前に、多くの人が日本語の壁に挫折する恐れがあるのだ。介護現場における労働力を補うための第一の施策は、取得要件の緩和ではなかろうか。
(福本博文 ふくもと・ひろふみ=ノンフィクション作家)
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