*このコーナーでは、『日本の論点』スタッフライターや各分野のエキスパートが耳寄り情報、マル秘情報をもとに、政治・経済・外交・社会などの分野ごとに近未来を予測します。
“史上最大の経済対策”の一環として、5月15日から事業規模3000億円の「エコポイント」制度がスタートした。該当する冷蔵庫、エアコン、地デジ対応テレビを購入すると、その金額に応じてポイントが付与され、後に何らかの商品・サービスと交換できるというものだ。民間に数多あるポイント制度に比べて手続きが煩雑なうえ、他のポイントと交換できるといった流動性もゼロ。しかも現段階では、具体的にどんな商品・サービスと交換できるかも定まっていない。それでも家電量販店は今までより賑わっているというから、売り上げにはある程度貢献しているのかもしれない。
ところで、肝心なのは、こうした施策が経済対策になるのかということだ。3月末以降、休日の高速道路料金を大幅に引き下げた結果、大渋滞を巻き起こした。今回のエコポイント制では、大量の廃家電を発生させるだろう。さらに、“買い換え”のすすめには、地デジ化の促進という別の目的が相乗りしている。これらを考えると、そもそも「エコ」が口実でしかないことは誰の目にも明らかだ。大幅な減収で苦境に立つ家電メーカーに対する、政府の救済策の色合いが濃い。では、こんなことで日本経済は上向くのか。
財政出動には、需要を掘り起こす“呼び水”になることが期待されているはずである。ところが、冷蔵庫、エアコン、テレビとも、必需品だけにもともと買い換え需要は存在していて、ポイントが付くという理由だけで必要もなく買い換える人はいないし、マニアでもないかぎり、“まとめ買い”もあり得ない。せいぜい、買い控えていた人が「そろそろ」と考えるか、来年以降に予定していた人が「今のうちに」と考える程度だろう。だとすれば、これは需要の前倒しでしかない。
「ついでに洗濯機も買おう」とか「どうせなら冷蔵庫の中身も満載にしよう」などと考える人はごく少数のはずだ。むしろ収入の伸びない昨今の家計事情を考えれば、散財した分だけ、他の出費を抑えるのがふつうの感覚だろう。つまり、家電量販店などへの支払いが増えるだけで、個人消費そのものの伸びは期待できない。とすれば、とても“呼び水”とはいえない。
この4月、日銀の白川方明総裁がニューヨークで講演し、90年代の日本が得た教訓を「偽りの夜明け」と表現して話題を呼んだ。一時的な回復局面を迎えると、人々はそれを本格回復と勘違いしがちだ、というのである。楽観ムードが漂いはじめた昨今の米国経済に警鐘を発したものだが、これは今の日本にも当てはまるだろう。「エコポイント」が奏功すれば、家電メーカーの今期業績の下支えにはなるかもしれない。そして、それが「経済対策の成果」として喧伝されることも、十分にあり得る。
しかし、その反動が、来期以降にやって来る。家電メーカーばかりが一時的に潤っても、経済全体の底上げにはならないのだ。農業を見れば明らかなように、外部環境が厳しいからといって国から手厚い保護を受けるような産業は、長期的には衰退の道をたどる可能性が高い。日本を代表する家電メーカー各社がそうなれば、それこそが“呼び水”になって、日本の「夜明け」はますます遠のくだろう。
(島田栄昭 しまだ・よしあき=『日本の論点』スタッフライター)
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