*このコーナーでは、『日本の論点』スタッフライターや各分野のエキスパートが耳寄り情報、マル秘情報をもとに、政治・経済・外交・社会などの分野ごとに近未来を予測します。
2020年までに日本が目指す温室効果ガス削減の中期目標が、「05年比で15%削減」と決まった。15%減は、省エネなど国内での削減努力だけを積み上げた「真水」の数値で、途上国から排出権を買い取る排出量取引や森林による吸収分は含んでいない。欧米の中期目標(05年比で米国14%減、EU13%減)が、排出量取引などで数値を膨らませているのとは違う。ポスト京都の枠組みづくりに向けた第一歩として、麻生太郎首相が「極めて野心的な目標」と自賛したゆえんである。
環境団体は不十分だと批判するが、現行の京都議定書の削減目標さえ達成が危ぶまれるわが国にとって、経済的手法を使わず、国内でまるまる15%の排出量を削減すると公約した意味は、それだけで十分重いといえるだろう。
政府の試算によると、目標達成に必要な排出規制などを講じた場合、生産活動の縮小で20年時点の国内総生産(GDP)は約0.6%押し下げられ、失業率は約0.2%悪化する。可処分所得は一世帯当たりで年間4万3000円減少。家庭で発電した電力の買い取り制度が始まれば、その費用が電気料金に上乗せされ、さらにクリーンエネルギーといわれる原発の増設費などを含めると、光熱費は3万3000円増加、家計は年間7万6000円の負担増になると試算されている。
「これはわれわれの地球を守るコスト」――首相はそう力説した。だが、経済や国民生活への影響は本当にこの程度で済むのだろうか。二度の石油危機をきっかけに、いちはやく省エネ化に取り組んできた日本の産業界の削減余地は他国ほど大きくない。よくいわれるように「カラカラに乾いた雑巾を絞る」厳しさだ。とりわけエネルギーを大量に消費する鉄鋼や化学、紙・パルプなどの業界では、技術開発を進めても目標達成が難しいとなれば、国際競争力を維持するために、減産よりも、削減負担の軽い途上国への生産移転がさらに進むのではないか。地球全体としての排出量削減に逆行するうえ、国内経済の空洞化にも拍車がかかり、政府試算以上に多くの雇用が失われるおそれがある。
今回の中期目標は、太陽光発電の導入量を現在の20倍に増やし、新車の2台に1台をハイブリッド車などのエコカーにするなど、最先端の省エネ機器の普及促進を前提としているため、環境関連分野のメーカーには“追い風”になるといわれる。ただ、当然のことながら、製品はエコでも、製造過程では温室効果ガス排出が避けられない。導入推進策で需要を喚起しても、国内で生産を進めれば排出量が増えてしまうのだから、日本での事業拡大や経済活性化の効果には自ずと限界があるとみるべきだろう。
経済空洞化で雇用や収入の不安が広がれば、エコカーであれ、省エネ家電であれ、政府が思い描くように買い替えは進まない。つまり「05年比15%減」という目標と、それを達成するためのシナリオにはそもそも矛盾があるのだ。
環境と経済の両立のために、産業構造の転換が不可欠なことは論をまたない。ならば、環境関連技術を日本の新たな成長分野に育てあげるまでは、それに必要な排出量の増加分を削減対象から除外するのも一案ではないか。その増加分をこそ「われわれの地球を守る真のコスト」と見たい。他国の顔色をうかがって、たかだか10年後の中期目標の数値にばかりとらわれていては、将来の環境も経済も豊かさを失ってしまう。
(平林謙治 ひらばやし・けんじ=『日本の論点』スタッフライター)
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