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コメの生産調整(減反政策)の見直しは進むか?
2009.07.30 更新
*このコーナーでは、『日本の論点』スタッフライターや各分野のエキスパートが耳寄り情報、マル秘情報をもとに、政治・経済・外交・社会などの分野ごとに近未来を予測します。

 過去40年間続いてきたコメの生産調整、いわゆる減反が曲がり角を迎えている。今年はじめ、石破農相が減反の見直しを表明したのを受けて、政府の特命チームは9月にも、見直す内容の中間報告をまとめる予定(当初は8月)だ。農水省も、減反の見直しによる米価や生産量を試算するとともに、中身をつめている。

 ただ目下、総選挙の真最中、しかも民主党が政権党になる可能性もあって流動的だが、現段階で具体的な政策案として考えられているのが「減反選択制」だ。その点、民主党も「コメを作らないことに対して奨励金を出すという意味での減反はやめる」(筒井信隆・ネクスト農相、7月8日の東京都内での公開討論)と明言しているから、大きな変更はなさそうだ。

 「減反選択制」とは生産調整に参加するかどうかを農家が判断し、国は協力する農家だけについて米価の下落に応じて所得を補償するというもの。廃止ほどドラスティックではないものの、実現すれば自民党政治が40年続けてきた減反政策に風穴を開けることになる。

 減反は1970年から始まった。単収増(品種改良などによる面積あたりの収穫増)によってコメの生産が増えたのと、食生活の変化でコメの消費量が減ったのが原因で在庫が積みあがってしまったことが背景にある。当時は食糧管理法のもとで、コメは全量政府の管理下にあり、政府が再生産を補償する価格で生産者からコメを買い上げ(生産者米価)、消費者には家計費で賄える価格で売り渡す(消費者米価)という二重価格性が敷かれていた。このため消費者米価より生産者米価が高いという時期が続き、政府の食管会計は赤字を重ねていた。

 減反政策は、この行き詰まった制度を解決するための緊急避難だった。ところが、始めてみると、翌年の71年には、前年の2倍以上の目標面積50万ヘクタールの減反が必要となり、以後年々面積を広げ今日にいたっている。

 制度的には「農家の自主的な取り組み」という立場をとっているが、コメに替えて麦、豆、牧草、園芸作物などの作付けをおこなうと、転作奨励金という名の補助金が出るいっぽう、稲作の補助金をもらうには、配分された転作面積の達成を対象要件とするなど、実質的には義務化された制度といえる。また耕作地そのものの放棄は農地の地力低下、荒廃につながることから、転作面積とはみなされない。

 減反は農民からコメをつくる意欲を奪っただけでなく、さまざまな影響をもたらした。かつてはコメと麦の二本立てだった日本の水田から麦が姿を消した。コストの低い輸入麦が市場を独占するようになったからだ。麦をつくっていたときは、6月下旬から7月上旬が田植えの時期だったが、麦をつくらない現在は4月下旬から5月におこなうようになり、コメの作付け期間に余裕ができたこと、さらに新技術が導入されたことで単収増がはかれるようになった。

 今回、政府がコメ政策の見直しを進めようとするのは、コメの消費減少で減反面積が年々拡大し(全体の40%)、限界に近づいていること、さらに、コメ農家の約3割が減反に協力していないという現状が背景にある。じっさい、コメを作らなくとも、いつでも作付けできるよう農地を維持しなければ補助金はもらえないし、農地を維持するにはコストがかかるのだ。だからといって、転作するにはまた別の苦労がある。いっぽう、先進国で最低水準の食料自給率(40%)なのに、耕作放棄地が増えている矛盾に国民は批判の目を向けている。

 では減反を見直すと、米価と生産量はどう変化するか。農水省の試算によると、現在、コメの生産量は856万tで、市場価格は60kgあたり約1万5000円であるのに対し、減反を廃止した場合、生産量が増えて米価は短期的には5800円程度まで下がり、その結果、コメ作りを止める農家が出るが、徐々に消費が増え価格は回復、10年目には価格が9700円程度、生産量も930万tまで増える。

 逆に、減反を強化した場合は、米価は2万円まで上がって、10年目には、1万8000円に高止まりし、生産量は750万tに減るとしている。

 減反の緩和という中間のケースでは、10年後の価格は1万2000円程度、生産量は870万tという予測だ。現在、農家の採算の合うコストは、60kgあたり1万4000円とされており、緩和案では、経営は厳しくなる。

 政府素案の減反選択制は、(1)減反に協力し、主食用のコメの生産をやめて麦などを作る農家に現在交付している転作奨励金を廃止し、(2)減反緩和(今日の政策)で米価が下落した場合は、減反に協力した農家に対して所得補償する。またそのうえで、(3)減反に協力しなくとも、小麦や大豆をつくる農家を支援する新たな施策をおこなうことを考えている。政府は現在、年に2000億円を使って転作を奨励しているが、所得補償の制度設計によっては、補助金の額がこれを大幅に上回る可能性がある。

 7月7日に農水省が発表した農家アンケート(1万810人の農家に聞き、74.7%から回答を得た)では、減反の縮小と廃止を合わせた「見直し派」が51.8%、現状維持もしくは強化の「推進派」が45.9%と拮抗している。減反選択制は、こうした農家の意見を意識した折衷案だ。

 元農水省農村振興局次長で経済産業研究所上席研究員の山下一仁氏は、減反選択制は「米価を下げて消費者に利益をもたらす点では画期的」としながらも、「大半の現状維持的な兼業農家は、現在の米価水準が補償されるので農業を続けてしまう。主業農家に農地を集めてスケールメリットを出させるためには、減反は廃止すべき」であり、「主業農家の収益が向上すれば、土地を差し出す零細な兼業農家への地代支払いも増える」と、減反は零細農家の切捨てにはならないと指摘している。(「週刊ダイヤモンド」09年2月28日号)

(青山和樹 あおやま・かずき=「日本の論点」スタッフライター)


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