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これからどうなる?
「菅おろし」は成功するか
2011.06.24 更新
*このコーナーでは、『日本の論点』スタッフライターや各分野のエキスパートが耳寄り情報、マル秘情報をもとに、政治・経済・外交・社会などの分野ごとに近未来を予測します。

「オレは再生エネルギーまでやりたいんだ」――6月20日夜、首相公邸で、菅直人首相は、特例公債法案と第二次補正予算案の成立と引き替えに退陣を求める岡田克也・民主党幹事長らを前に、机をたたいて拒絶したという。同席していた仙谷由人官房副長官(代表代行)が、あとで「なんとかに刃物だな」とあきれ返ったほどの異様さだったといわれる。

 通常国会の会期延長幅は、120日、50日、100日と迷走の末、菅首相の思惑どおり「70日」で決着した。自民、公明両党と「50日」で合意したのが反故になったことで、延長後の国会運営の見通しは、いちだんと混迷を深めることになった。

 民主党執行部による「菅おろし」という異例の展開のなか、「刺し違える覚悟」とまでいっていた岡田幹事長ら党執行部がそろって辞表をたたきつける一幕も想定された。しかし、軍配は菅首相に上がった。焦点だった復興担当相も、菅首相の退任時期を「6月一杯だ」としていた防災担当兼環境大臣の松本龍氏に決まった。だが、だからといって菅首相の劣勢が挽回されたわけではない。むしろ党執行部との溝は深まったといってよい。

 6月2日の代議士会で、「一定のメドがついたら」と、事実上の退陣表明をした菅首相の、その後の粘り腰は、さながら「ゾンビ」のようだとの評価がある。渡辺喜美・みんなの党代表は、「菅さんは延命学の大家」と皮肉り、渡部恒三・民主党最高顧問も、「菅くんは、9回裏なのに、まだ4回裏で、4回ぐらい打席に立てると思っているんだ」とあきれた。

 会期は6月22日から8月31日まで延びたが、菅おろしにピリオドが打たれたわけではない。党の分裂を避けようと不信任案を否決に導いたにもかかわらず、どたん場で首相に裏切られた鳩山由紀夫前首相、そして小沢一郎元代表のグループら、反菅陣営が描く菅おろしのシナリオは次のようなものだ。

(1)予定されている両院議員総会(6月28日に開催の予定だが、決定は幹事長の専権で、まだ流動的)で、首相の一連の失政の責任を追及し、「代表解任決議」を突きつけ、そのうえで党規約を改正して代表辞任を迫る、(2)国会審議が混乱したときに岡田幹事長が辞表を出し、これに他の役員らが追随することで首相の責任を追及する、(3)野党が参院で「首相問責決議案」を提出し、これに民主党執行部が同調する、(4)反菅陣営が離党し、衆院で過半数割れに追い込む――といったものだ。

 党内で首相に対する不信感が増幅した一因に、「『新しい体制』で第三次補正予算の編成をおこなう」とした首相の“宣言”がある。会期を延長するにあたって、与野党間の合意では、「『新しい首相で』第三次補正を」と明記されていた。それを菅首相が強引に、「新体制」と書き改めさせた。つまり「『新体制』とは『新首相』でなく、内閣改造を意味するのだ。辞めることを約束したわけではない」と、いいわけできるようにしたのである。自民党、公明党はもとより、民主党執行部までが、またもや確認事項を首相の都合のいいようにねじ曲げられてしまった。

 8月一杯の延命が確実になれば、「菅首相のことだから、次は、目下、成立に執念を見せている再生エネルギー法案をテコに衆院の解散・総選挙に打って出るのではないか」、との予想が成り立って不思議はない。現に、西岡武夫参院議長も、「首相は、目先の問題も処理しないまま、脱原発を掲げて解散しかねない」と語っている(6月22日の会見で)。では、「世代交代をにおわせた、あの辞任表明は何だったのか。言うこととやることが全然違う。欺される執行部も執行部だ」と、今度は、腰くだけになった岡田幹事長の党運営に批判が集中しだした。

 さらに見逃せないのは、70日の会期延長幅がもつ政治的な意味合いだ。被災県の首長、議会選挙は、大震災の発生によって延期されている。その期限が切れるのが9月22日。憲法の規定では、衆議院を解散したら、40日以内に選挙をおこなわなければならないとされている。となると9月22日からさかのぼること、40日といえば、8月15日の終戦記念日になる。つまりこの日以降、衆院選挙をやろうと思えば、首相の独断でできるのである。また、野党が辞任との取引材料にしている特例公債法案も、衆院の再議決(60日ルール)をして成立させようと思えばできるのだ。

 傍目には一人で権力の座に妄執するように見える菅首相だが、じつは知恵をつけている者がいる。そのひとりは、国民新党の亀井静香代表だ。足繁く首相公邸に通い、「いまこそ救国内閣をつくるとき」、「リーダーシップは小泉(純一郎元首相)さんを見習え」と、背中を押すようにアドバイスを繰り返してきた。23日夜も、復興担当相の起用に合わせて、大幅な内閣改造を進言し、孤立無援の首相を勇気づけた。

 もうひとりのアドバイザーが、一昨年の政権交代に大きく貢献した、民主党を支持する大手マスコミのベテラン記者たちだ。首相は、彼らとたびたび密かに会食し、折々に意見を聞いている。6月21日の朝日新聞は、社説で「経済界などに抵抗が根強い脱原発依存に、道筋をつけたいという思いも、日に日に強まっているのだろう。だから続投したいという心情は、わからないではない。(中略)事態を打開できるのは、首相なのだ。まず記者会見を開き、退任時期と、それまでに何としても成し遂げたい政策課題を明確に示すべきだ。いわば、最後の使命を明らかにして、理解を求めるのだ」と、次の一手とともに、首相の花道を教えている。「脱小沢戦略」も、彼らのアドバイスが奏功している。彼らの思いの共通項は、たとえ首相の首をすげ替えようとも、けっして自民党に政権を戻すことなどあってはならない、の一点である。

 菅首相は、この1年間、次々と新しい課題を掲げてきた。消費税の増税、TPP(環太平洋経済連携協定)、税と社会保障の一体改革……だが、いずれも未完のままだ。そして直近にいい出したのが、太陽光など再生可能エネルギーの電力を電力会社が買い取る特別措置法案である。6月15日夜の集会では、「わたしの顔を本当に見たくないのなら、早く法案を通せ」とまで挑発した。谷垣禎一・自民党総裁が「一国の責任者として言うべき言葉でない。立法府をまったく侮辱している発言だ」と強く批判した。

 6月23日、菅首相は、訪問先の沖縄で、記者団に対し、「わたしがやらなければならない課題は、震災の復旧・復興と原子力事故の収束だ。わたしとしても燃え尽きる覚悟で取り組んでいきたい」と、「菅おろし」もなんのその、意気軒高なところを見せた。しかし、内閣支持率が20%台に低迷しているのも事実、すでに大多数の国民の支持は失っている。

 自民党の55年にわたる一党支配を崩し、非自民連立政権をつくった(1993年8月)細川護煕元首相は、その263日の政権が終わるとき、人質になることを拒絶し、壮絶な最期を遂げた明智光秀の三女、細川ガラシャの辞世の句を引いた。

「散りぬべき 時知りてこそ 世の中の 花も花なれ 人も人なれ」

 小泉純一郎元首相も同様に、自らの退陣の際、やはりこの句を引用した。

(松本泰高 まつもと・たいこう=政治ジャーナリスト『日本の論点』スタッフライター)
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