7月5日、農林水産省の石原葵事務次官は記者会見で、米国産牛肉の輸入禁止にからむ日米BSE(牛海綿状脳症=狂牛病)専門家・実務者協議の場において、日本側の専門家が全頭検査の限界に言及したことについて、「慎重のうえにも慎重を期すのがわれわれの考え方だ。だからといって全頭検査をやめていいのか、問題がある」と、日本としては今後も全頭検査を継続していく方針であることを強調した。
6月28〜30日まで米コロラド州で開かれた2回目の日米協議作業部会で、日本側が専門家の立場から「一定の月齢以下の牛では、BSEに感染しても、現在の検査では脳に蓄積する異常プリオンを検出できない」との認識を示した。いっぽう、米国側は、これまで拒否していた脳や脊髄など特定危険部位の除去を民間業者にやらせ、それを政府が認証する方式を提案した。結果、この協議は、日米双方が米国産牛肉の輸入再開へ向けてお互いに譲歩し合ったものと受け止められた。
上の農水次官発言は、日本側が米国産牛肉の全頭検査の条件緩和に踏み切るのではないか、と観測されたことに対し、一応は否定してみせたものだ。石原次官は、その理由として、(1)BSEが生後何カ月の牛から検出できるのか科学的問題が未解決、(2)牛の月齢を判断する方法が米国では未整備――の点を挙げ、「国際的にみてもBSEの科学的知見の蓄積が十分でなく、日本の(消費者の)懸念を払拭するために必要な措置が全頭検査になる可能性はある」と示唆した。
BSEは、牛の脳が神経の異常でスポンジのような海綿状になり、よろめいて立てない運動障害を起こして最後は衰弱死する病気だ。病原体はプリオン・タンパク質で、クズ肉からつくる飼料の肉骨粉を介して経口感染する。昨年12月23日、米国で1頭が発見されたため、以来日本は米国産牛肉の輸入を禁止している。日米協議作業部会は輸入再開のための条件整備を話し合うため、4月24日に設置され、5、6月の2回行われている。日本では、2001年に北海道でBSE感染牛が発見されて以降、すべての食肉処理をする牛にBSEの全頭検査を実施している。輸入再開の条件として米国でも実施するよう、強く要求しているのは、「内外無差別」の方針からだ。
しかし、米国は年間約3500万頭を処理する世界最大の牛肉生産国だ。コストと時間のかかる全頭検査には反対してきたが、輸出制限は打撃で、このため妥協策として簡易検査を導入した。また、ことし6月からは、それまで年間2万頭だったBSE検査を、1年半後には28万5000頭に増やし、日本側が求める特定危険部位の除去にも応じるなど譲歩の姿勢をみせてきている。
米国産牛肉の輸入禁止は、「牛丼」チェーン店で知られる吉野屋の客足を激減させるなど、国内の外食産業に少なからぬ影響を与えている。また、米国側の畜産農家や食肉業者のダメージも大きく、早期の輸入再開への圧力が日米双方で強まってきているのが現実だ。
今後、日米協議は3回目の作業部会を7月下旬に行い、8月の局長級協議で決着を目指す方向だ。焦点はBSE基準の緩和が実現するかどうかで、4月から検証作業にとりかかっている「食品安全委員会」の動向が注目されている。同委員会は、昨年7月、食品安全基本法に基づいて内閣府に設置されたもので、寺田雅昭委員長ら学識経験者で構成する7人の委員が、農水省や厚生労働省など関係行政機関の規制や指導から独立して、客観的かつ中立公正に食品中の危害要因が健康に及ぼす影響を評価する、としている。いまのところ、専門家の間の「BSE発症は、生後30カ月以上の牛で高まり、それ以下の若い牛はBSEにかかりにくい」という常識を拠りどころに、若い牛の輸入を解禁するか、実質的に全頭検査と同等の措置をどう担保するかがポイントになるとみられている。
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