4月末から5月初めにかけて、鳥インフルエンザウイルスのなかでも強い毒性をもつH5N1型が、秋田・十和田湖と北海道・野付半島で見つかった渡り鳥のオオハクチョウの死骸から検出された。同型のウイルスの感染による野鳥の大量死はいまのところ発見されていないが、インドネシアでは107人が鳥インフルエンザの感染によって死亡するなど東アジアにおける流行が懸念されているだけに、政府は、日本への本格的な上陸に警戒を強めている。
人に感染するインフルエンザウイルスには、A型、B型、C型の三つのタイプがある。B型、C型は、冬になると流行するインフルエンザで、ふつうの風邪症状に加えて、38度以上の発熱、筋肉痛などの全身症状が強くあらわれる。A型は、鳥やブタに感染すると(人獣共通感染症)、その過程でウイルスの遺伝子が変異し、さらにそれが人に感染した場合、免疫をもたない人は症状が重く、死亡率が高いのが特徴だ。
鳥類に感染したウイルスを総称して鳥インフルエンザウイルスと呼ぶが、なかでも、もっとも強い毒性をもつのが高病原性鳥インフルエンザ、すなわちH5N1型だ。感染した鶏や七面鳥、アヒルなど家禽類の大半は短期間で死亡する。
世界がその大流行(パンデミック)を警戒しているのは、このH5N1型がさらに変異した「新型ウイルス」によるインフルエンザである。ブタの呼吸器でヒトのインフルエンザウイルスと鳥のインフルエンザウイルスが混じりあって、人に感染し、さらに今度は、人の体内で増えることができるように自ら変異し、人から人へ効率よく感染するようになったものだ。
この新型インフルエンザは、過去10〜40年周期で流行してきた。20世紀にかぎっても、世界で4000万人の死者を出した(日本では39万人)1918年の「スペイン風邪」をはじめ、1957年に流行した「アジア風邪」、1968年に猛威をふるった「香港風邪」、1977年の「ソ連風邪」など、いずれも多くの死亡者を出した。経済がグローバル化し、人々が頻繁に移動、接触を繰り返す今日、もしスペイン風邪と同じ程度の感染力のあるウイルスが蔓延したとすると、全世界で30億人が感染し、6000万人以上が死亡するという推計がある。ちなみにスペイン風邪が流行ったのは、ちょうど第一次世界大戦のさなかから戦争直後にかけての時期で、疲労した軍隊が集団でヨーロッパを移動したため、容易に感染した。ウイルスの感染力も非常に強く、軍隊にたった1人の感染者が出ただけで、翌日には数百人の患者が生まれたという。
かりに日本で新型インフルエンザが流行したとすれば、そのとき64万人が死亡するという推計もある。政府は、こうしたパンデミックに備え、05年12月に「新型インフルエンザ対策行動計画」を策定(07年10月に改定)、次いで07年3月に「新型インフルエンザに関するガイドライン」をつくり、抗インフルエンザウイルス薬2800万人分の確保やワクチン原液1000万人分の備蓄などの措置を講じている。
今回、北海道でH5N1型が検出されたことについて、京都産業大学の大槻公一客員教授は「シベリアや中国東北部など北方からの渡り鳥によって日本に持ち込まれたウイルスにハクチョウが感染した可能性がある。過去に日本で検出されたH5N1型ウイルスは、いずれも朝鮮半島などから飛来する渡り鳥によって持ち込まれたと考えられ、報告は西日本に限定されていた」と分析しているが、とすれば、今後、被害は東日本に拡大することも考えられ、環境省や国立環境研究所では、検体の採取や検査、ウイルスの拡散状況を調査するという(日本経済新聞5月6日付より)。
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