アフガニスタン東部で、現地の反政府武装勢力に拉致されていたNGO(非政府組織)「ペシャワール会」の農業スタッフ、伊藤和也さん(31歳)が、8月27日、射殺死体で発見された。海外で人道支援活動を行っている最中に凶弾に倒れた例は、15年前のカンボジアにおける選挙監視の国連ボランティア中田厚さん、10年前の中央アジア・タジキスタンで紛争解決にあたっていた国連政務官秋野豊さん(元筑波大助教授)以来のこと。
ペシャワール会とは、「マグサイサイ賞」(アジアのノーベル賞といわれる)を受けた中村哲医師が代表となって1983年にパキスタンで設立されたNGO。本部は福岡市。アフガニスタンやパキスタンで医療活動や井戸掘り、農業支援活動などに取り組んでおり、犠牲になった伊藤さんは、農業スタッフとして03年12月からサツマイモやコメの栽培、農業用水路づくりなどに協力してきた。ペシャワール会の活動は、2万人の会員と年3億円の募金で支えられ、アフガニスタンでは、スタッフが現地語を話すなど地元に溶け込んだ活動ぶりが強みだった。
犯人はだれで、いったいなぜ殺されたのか――現地からの情報によると、反政府武装勢力のタリバンの報道官が声明で犯行を認め、「住民に西洋文化を植え付けようとするスパイだ」と伊藤さんを非難した。しかし、現地の事情に詳しいペシャワール会の関係者は、タリバンとは関係の薄い地元部族住民(パシャイ部族)が金銭目当てで誘拐し、タリバンに売りつけようとしたのではないか、とみている。アフガン情勢に精通するアジアプレスの白川徹氏は「アフガニスタンでは多国籍軍の長い駐留で、外国人への不信が高まっている。復興事業で潤う都市部以外ではNGOへの反発も強い。ペシャワール会は80年代から活動を続け、評価が高かっただけに、よりによってなぜ、との思いが強い」(東京新聞8月28日付)と話している。
今回の事件によって、改めてアフガニスタンの治安状況の悪化が証明されたかたちになり、政府の対テロ支援活動が大きな曲がり角に直面しそうだ。福田首相は、8月28日配信のメールマガジンで「伊藤さんの遺志にもこたえ、また平和協力国家としての日本の役割」と言及し、9月から始まる臨時国会において、来年1月15日で期限切れとなるインド洋での給油支援を継続する新テロ対策特別措置法案の再延長に、不退転の決意で取り組む姿勢を示した。町村官房長官も28日の記者会見で「テロとの戦いの戦列から脱落しない」と強調した。しかし、民主党はじめ野党は、犠牲者が出たことに勢いを得て、再延長にはこぞって反対を表明した。また与党の公明党も、前国会のように衆院で再議決をしてまで再延長することには慎重な姿勢だ。
アフガニスタンには現在、計40カ国、約5万3000人の治安対策を行う国際治安支援部隊(ISAF)が展開しているが、03年からは、このうち米英など14カ国が主導して、地方復興チーム(PRT)と呼ばれる、民間人もいれた組織をつくって活動している。ちなみに、主要8カ国(G8)のうち、アフガンに軍隊を派遣していないのは日本とロシアだけだ。
いっぽう、アフガニスタンでは、ペシャワール会のほか、地雷の危険性を教育する「難民を助ける会」や、学校建設を行う「シャンティ国際ボランティア会」、井戸の水位測定などを行う「ピースウィンズ・ジャパン」など、日本のNGOが計8団体活動をおこなっている。しかし軍隊のフォローのない日本人NGOスタッフの安全は、自己責任の範ちゅうだ。外務省は、アフガニスタン全土の邦人にたいして退避勧告を出している。今回の事件をうけて、ペシャワール会は、現地からの日本人スタッフの引き揚げを決めた。今後は現地人スタッフのみで事業を続けていくという。
|