5日、森英介法相は、記者会見で、殺人など重大犯罪の公訴時効(以下、時効)について「被害者を中心に見直しを求める声が多く寄せられている。時効制度のあり方を検討したい」と語り、法務省内に勉強会を設置したことを明らかにした。
公訴時効とは、犯罪行為が終わったときから一定期間が経ってしまうと、起訴することができない制度で、(1)時間の経過とともに犯罪の社会的影響が弱まり、遺族や被害者の応報感情が薄れる。(2)現場の状況が変化し、証拠が散逸したり劣化して公判の維持がむずかしくなる。(3)長期にわたる捜査によって捜査側の負担が増す、というのがその理由だ。
ちなみに英国には時効制度はなく、米国も州によって違うが、殺人のような重大事件では時効制度のない州が多い。ドイツではナチス犯罪の追及のため時効を廃止している。
現行の刑事訴訟法では、殺人などの重大犯罪を犯した「死刑にあたる罪」は時効期間を25年、「無期の懲役又は禁錮にあたる罪」は15年、「長期15年以上の懲役又は禁錮にあたる罪」は10年、などと定めている。とくに今回問題となったのは、殺人などの時効で、期間の延長や撤廃も含めて検討される予定だ。
こうした議論の背景には、被害者や遺族の被害感情の高まりがある。毎日新聞が調査したところによると、2007年中に時効が成立した殺人事件は59件(08年6月22日付)、過去5年で最多だった。08年11月には、「全国犯罪被害者の会」が「被害感情は時の経過とともに、むしろ増していく」として、時効廃止を求める決議をおこなった。また12月には、東京・世田谷区の一家4人殺害事件の遺族が記者会見し、時効制度の見直しを訴えている。
時効の見直し論議は、DNA鑑定など、科学捜査の急速な進歩も大きく後押ししている。今日、DNA鑑定で型が一致した場合、別の人間が存在する確率は、4兆7000億分の1人というほど、精度が上がっている。すでにアメリカでは、被害者の体内から血液や体液を採取しやすいレイプ事件にかぎって、容疑者のものと特定されたDNAに人格を与え、起訴するという「ジョン・ドゥ(JD)=名無しの権兵衛という意味」法を03年に成立させている。
日本でも、殺人などにこの制度の導入を求める声が強いが、日本の刑事訴訟法では、「被告人の氏名その他被告人を特定するに足りる事項」を起訴状に記入しなければならず、いままで、氏名などを特定せずに起訴された殺人犯はない。
いっぽう、殺人の時効の見直しについては、すでに05年の改正刑事訴訟法(刑法、刑事訴訟法とも、1907年以来の100年ぶりの改正だった)で、15年から25年に延長されており、専門家や法務省のなかには慎重論もある。たとえば、時効は犯人の「逃げ得」を容認することになるという意見に対して、安冨潔・慶應義塾大学教授は、犯罪者にすれば長期間の逃亡生活自体がすでに犯罪者に対する制裁になっており、制裁に制限を設けるのは、「いつ逮捕されるかわからない」という重圧に終止符を打ち、「法的地位を安定させることができる」という(読売新聞1月4日付)。
5月からいよいよ裁判員制度が始まる。いずれの立場に立つにせよ、いままで法曹界だけで論じられてきた法理論を一般人が理解するには、論理性とともに明快さが必要になる。時効問題は、まさに格好のテーマのひとつではないか。
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