オバマ大統領が現下の金融・経済危機からの再生をめざして打ち出した、総額8250億ドル(約73兆円)規模の景気回復政策。1月28日、この政策を実施するための法案が下院を通過した。「グリーン・ニューディール」の名は、1930年代に米国から世界に飛び火した大恐慌から脱するため、フランクリン・ローズベルト大統領がとった経済計画「ニューディール政策」にちなんでつけられた。今回の政策が実行されれば、このニューディールをはるかにしのぐ米国史上最大の財政出動となる。
グリーン・ニューディール政策の柱は次の三つ。(1)インフラ整備――老朽化した道路や橋などへの改修・刷新、新しい公共交通機関の提供、土木・建設業などによる雇用創出。(2)環境政策――公共施設のエネルギー効率の改善、低燃費車の開発、今後10年間で1500億ドルを投資し、風力・太陽光・バイオ燃料などの新エネルギーを開発、3000マイル(約4800q)以上の送電線網の敷設、500万人の雇用(グリーンジョブ)を創出。(3)米国の競争力強化――教育環境の改善(学校1万校の改修・刷新、最先端の教室・図書館・実験室づくりを推進し、生徒500万人の教育環境を改善する。低所得者用公的奨学金を充実し700万人の学生が学費を払えるようにする。大学生400万人を対象に2500万人の税控除、科学分野の研究助成制度を3倍増)、高速・高容量のネット環境の整備、医療改革(医療記録の電子化、再生医療研究の推進)。
1929年、ニューヨークの株式大暴落で始まった大恐慌によって、アメリカでは1932年までにGNPが半減、1300万人の失業者が出現した。この時期、共和党のフーバー大統領に代わって民主党のフランクリン・ローズベルト大統領が登場し、巨額の政府支出による公共事業の拡大と雇用創出、規制強化、福祉拡大を図ろうとしたことは、オバマ新大統領の景気回復政策と重なる部分が多い。
ローズベルト大統領は、まず海外での金取引を統制下におき、金本位制を停止するなど対外経済関係を政府管理とする一方、国内経済的については特別の議会で矢継ぎ早に経済再建法案を成立させ、実業界に対する政府の積極的な介入を図った。民間資源保存局による大規模雇用の確保、農業調整法による生産調整と農産物価格の下支え、テネシー川流域開発公社などの公共事業による地域総合開発、復興金融公社法による銀行の再建、全国産業復興法による総合的産業政策の実施、さらに社会保障法や富裕税法の制定など、社会主義を思わせる計画経済的な政策を次々に実施した。アメリカ史上初の「大きな政府」の誕生である。
これらの政策パッケージの実施で、1930年代後半、アメリカ経済は一時回復に向かうが、その時点でニューディール的政策の手を緩めたため、ふたたび経済が悪化した。最終的に景気が回復するのは、1940年代の第二次世界大戦参戦まで待たなければならなかった。このため経済再建政策としてのニューディール政策の評価は、定まっていない。
オバマ新大統領の景気回復政策は、明らかにこのニューディールを意識したものといえるが、公共投資の重点が、太陽光発電や風力発電などの再生可能エネルギーの拡大、バイオ燃料の開発など環境分野策におかれ、自動車産業に匹敵する新しい成長セクターを生み出そうとしている点で、従来型の道路やダムを建設する公共投資とは異なっている。かつてのニューディール政策を想起させつつ、新しい訴求点を巧みに打ち出しているところが、「グリーン・ニューディール」と呼ばれるゆえんである。
しかし、グリーン・ニューディール政策は、政府の介入を極端に排除し、温暖化防止への取り組みも経済成長を妨げると背を向けてきたブッシュ政権とは真反対の、「大きな政府」への政策転換となる。その実施に当たっては、ブッシュ政権が残した約1000兆円ともいわれる財政の累積赤字が財源問題として足かせになりそうだ。
|