東京都渋谷区が1月30日、トイレの命名権(ネーミングライツ)の販売を始めた。対象となるのは、渋谷や表参道など人通りの多い場所にある合計14カ所の公衆トイレ。契約期間は5年間で、法人のみが購入できる。購入者は、トイレの名前を決める権利をもつほか、看板を設置したり、区が所有する土地で広告を出したりできる。区では、必ずしも高い金額を提示した法人に売るというわけではなく、積極的にトイレの管理をおこなうことが購入の第一条件だ、としている。
募集は2週にわたって行われ、25社からの応募があった。渋谷区は今後、選定委員会を開いて契約先の企業を決める。
命名権とは、もともと1970年代に米国で、公共施設の運営資金を調達するために考案されたものだ。日本では2002年、食品大手「味の素」が、東京スタジアム(調布市)の命名権を東京都などから12億円(5年間)の契約で購入、新たに「味の素スタジアム」と名づけたのが、命名権ビジネスの先駆けとなった。
プロ野球でも、03年の「Yahoo!BB スタジアム」(神戸市)を皮切りに各球団へ広まり、今年4月には、広島市民球場を引きついだ新球場が、「マツダスタジアム」の名称で誕生する。文化施設では、06年に飲料大手のサントリーが渋谷公会堂の命名権を得て、「渋谷C.C.Lemonホール」と名づけた。このように各地に企業名を冠する公共施設が数多く誕生、08年の命名権の売り上げはおよそ42億円に達している。
地方自治体にとって、命名権ビジネスは施設の運営を支える財源となるうえ、地域のPRにつながるというメリットがある。コストもほとんどかからない。しかしその反面、市民からは、「何にでも企業の名前をつけるのは不愉快」「名前がコロコロと変わると、親しみがわいてこない」といった声も挙がっている。実際、07年初めに西武ドームを「グッドウィルドーム」と変更したものの、企業の不祥事のためにわずか1年で名前を元に戻さざるを得なかったという例もある。
さらに昨年来の景気後退で、命名権を売り出したにもかかわらず、なかなか買い手がみつからないといったケースが増えている。08年に自治体が公募を始めた57件のうち、企業の応募がなかった施設は34件(産経新聞2月2日付)。命名権ビジネスの本場の米国では、金融大手のシティグループが、大リーグ・メッツの新球場の命名権を総額4億ドル(20年間)で購入したものの、経済危機を理由に白紙をふくめ再検討を始めた。
そんななか、神奈川県では森林の命名権の販売を始めた。森林命名権(5年間有効)の代金として、企業や団体から10ha当たり300万円の寄付を募り、それを森林整備の財源にしようというものだ。命名された名前は、県がつくる地図に記され、買い手の企業に対して「二酸化炭素の削減に貢献した」という算定書も発行される。地球温暖化対策と自治体の財政再建、さらには森林整備による雇用創出を狙った新ビジネスだが、はたして奏功するか。
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