10人が火災で亡くなった群馬県渋川市の老人施設「静養ホームたまゆら」では、入居者20人余りのうち15人が東京・墨田区に住民票を置く生活保護受給者だった。この事件をきっかけに、都市部の高齢者が地方の施設に入所するケースが少なくないことが明らかになった。
朝日新聞の調査によれば、東京23区内に住民票を置いたまま、都外の施設で暮らしている生活保護受給者は1400人を超えるという。都市部では慢性の施設不足が生じているため、高齢者がすぐに入居できる施設は、高額の入居金を必要とする有料老人ホームしかない。生活保護受給者が老人ホームや高齢者向け住宅に入ろうとすれば、地元以外の場所で探さなければならないのが実情だ。23区の場合、入所先は埼玉、茨城、千葉など首都圏が多いが、もっと遠方の施設に入る人もいる。
ただ、入所にともなって住民票を現地に移してしまうと、生活保護費を現地の自治体が負担しなければならなくなるため、受け入れを拒否されることがある。そこで、住民票は元の住所に置いたまま転居するのである。都会は高齢者の受け入れ先を確保でき、地方は空いた施設を有効活用できる(しかも入所者には生活保護費という確実な収入があるため、施設側はとりっぱぐれがない)――双方にとって都合のよい結果だが、そこには落とし穴がある。受け入れ先が他県の場合、送り出した自治体の福祉事務所などの目が届きにくく、いっぽう、受け入れ先の自治体にとっては「住民」ではないため、担当する部署がない。虐待などのトラブルが起きても、泣き寝入りになるおそれが高いのである。
老人福祉法では、介護や食事サービスを提供する施設は、都道府県に対して有料老人ホームとしての届け出をしなければならない。しかし、全国の有料老人ホームの15%程度が無届けのままだと見られており、今回火災を起こした渋川市の「たまゆら」も同様だった。有料老人ホームとして届け出れば、都道府県の監査を受け入れ、人員の配置など一定の基準を守らなければならなくなる。基準を満たせない施設はあえて届けを出さずに運営することになる。
本来、こうした無届けの施設に自治体が高齢者を送り込むことはあってはならないが、正規のホームより入居金が安いため、必要悪のような存在になっている。「たまゆら」は以前から、防災面での備えが不十分だったり、不法な増改築をしたりと、さまざまな問題点が指摘されていたが、高齢者を送り出した墨田区側にすれば、劣悪な施設でもないよりはまし、背に腹は代えられない、というのが本音であろう。
今回の事故を機に、各自治体では、受け入れ先の施設の視察などを強化する方針を打ち出しているが、都市部の施設不足を解消できないかぎり、根本的な解決は不可能だといえる。
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