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臓器移植法改正
2009.04.23 更新
臓器移植をめぐる議論がにわかに高まっている。衆議院厚生労働委員会は、4月22日、臓器移植に関する小委員会を10カ月ぶりに開会した。
臓器移植法の改正論議は、過去、何度もおこなわれているが、今回また改正機運が高まっている理由は、来月にWHO(世界保健機関)が海外における臓器移植手術を自粛するよう各国に求める指針を発表するからだ。日本の臓器移植法は15歳未満の臓器提供を禁止しているため、小児患者による海外渡航が後を絶たない。日本も加盟している国際移植学会は、昨年5月、「外国人が臓器提供を受けることで、地元国民の移植の機会を奪うのは公平・正義に反する」とする「イスタンブール宣言」を採択、海外における臓器移植手術の禁止を促した。この宣言にもとづき、豪州や英国では、日本人の臓器移植受け入れを禁止した。
もともと日本の臓器移植法は、心臓死のみを人の死としていたものを、脳死も人の死と定義づけたもので、97年に施行されてから11年半が経過した。しかし、脳死下の臓器提供はこれまで81例のみで、脳死移植しか方法のない心臓移植は、そのうちの65件と少ない。日本の脳死移植が深刻な状況にあるのは、脳死判定基準が厳しく、さらに臓器提供の意思カードを所持している人が1割に満たないことが背景にある。脳死移植の成立には、(1)脳の機能が停止し、(2)生前に本人の意思があること、(3)家族の同意があること、という条件が揃っていなければならない。
いま、国会のたたき台になっている改正案は、3つある。A案は、脳死を一律に人の死とし、臓器提供者の年齢制限を撤廃するというもの。B案は年齢制限を引き下げるだけの案で、C案は、現状よりも脳死判定を厳格化する案だ。もしC案が成立すれば、脳死移植の数は現在よりも減ることが予想される。与野党は、今国会の成立を目指しているが、死生観に関わるテーマだけに、与野党とも党議拘束をかけない方針だ。だが3案がそろって採決にかけられると、票が割れ、過半数に達せず廃案になる可能性もある。ただでさえ、脳死に関わる議論は結論が出にくく、じっさい、A案とB案は06年にすでに提出されていたものの、3年以上たなざらしにされていた。
このため、目下、3案を修正した折衷案が検討されているが、これに対しては「ベースが違うものを一緒にできない。修正案づくりは時間稼ぎ。合併しろとの意見はやめてもらいたい」(河野太郎議員・朝日新聞4月22日付)との反対もある。A案提出者でもある河野太郎議員は、02年に父親の河野洋平衆院議長の肝炎治療のため、肝臓を一部提供した経験があり、改正に積極的だ。
臓器移植に対しては、日本は他国とくらべてきわめて慎重で、国民の間でも、倫理的な観点から、臓器移植法案そのものに対する反対意見も多い。しかし、日本の脳死移植では、生前の本人の意思確認(ドナーカード)と家族の同意が必要とされるが、オーストラリア、ベルギー、フランス、スペインといった国では、脳死した本人が「臓器提供に反対」の意思を生前に残していないかぎり、臓器提供を了承するとみなすことになっている。こうした「推定同意」の原則は先進国を中心に広まっており、日本でも同じような議論が出てくることも考えられる。
ただ、不幸にも脳死にいたってしまう人の多くは、病変か傷害によるもので、検視が必要なケースも少なくない。事件性のあるケースでは、自殺か他殺かという判断も求められる。とりわけ、他殺が疑われる場合、犯人逮捕につなげるための捜査に、死体検視を欠かすことはできない。現行の臓器移植法では、「検視その他の犯罪捜査に関する手続きが行なわれるときは、当該手続きが終了した後でなければ、当該死体から臓器を摘出してはならない」(第7条)としている。
しかし実際、脳死移植では亡くなってすぐの死体からの摘出手術が避けられない。生命倫理政策研究会共同代表のヤ島次郎氏は、「問題は、現場の警察官が外見で病死か事故か犯罪による死かを決めてしまえる仕組みになっていることだ。そこへ一刻を争う臓器摘出の要請が加わったら検死がおろそかになり真の死因が見過ごされる恐れが高まる」(読売新聞07年11月21日付)と指摘している。
関連論文
筆者の掲載許可が得られない論文はリンクしていません。
96年以前の論文については随時追加していきます。ご了承ください。
◆
私の
主張
(2005年)無理な生体肝移植を減らすためにも脳死臓器提供の要件を緩和すべきだ
河野太郎(衆議院議員、自民党副幹事長)
(2005年)「脳死」の患者は死んでいない。自己決定を無視した臓器摘出はできない
光石忠敬(弁護士)
(2004年)親として小児科医としていまも迷い悩む、一八年前のわが子の臓器提供
杉本健郎(関西医科大学男山病院小児科部長)
(2003年)小児移植を認め、提供を増やさなければ患者は “死亡待機”を強いられる
北村惣一郎(国立循環器病センター総長)
(2002年)小児における臓器移植は「生命に優しい社会」をつくるきっかけになる
野本亀久雄(九州大学名誉教授、日本移植学会理事長、日本臓器移植ネットワーク副理事長)
(2002年)十分な治療を保障できない小児救急体制の中では小児の脳死移植は無理
加部一彦(愛育病院新生児科部長)
(2001年)臓器摘出条件と一五歳未満の臓器提供を国際基準に改正すべきである
太田和夫(太田医学研究所所長)
(2001年)現行の臓器移植法は世界に誇れる――枠組みを変更する必要なし
森岡正博(大阪府立大学総合科学部教授)
(2000年)何度でもいう――脳死を人の死とする理由はどこにもない
梅原 猛(国際日本文化研究センター顧問)
(2000年)脳死臓器移植――いま医療として定着させることが肝心
北村惣一郎(国立循環器病センター副院長)
(2000年)脳死移植、最初の四例が臓器移植法の問題点を明確にあぶり出した
中谷瑾子(慶応義塾大学名誉教授、弁護士)
(1999年)移植医の訴追を避けるためにある現行法では提供者の善意は引き出せない
加賀乙彦(作家)
(1999年)臓器提供の意思表示が充分できない体制こそが問題である
白倉良太(大阪大学バイオメディカル研究教育センター教授)
(1998年)臓器移植法は移植患者に新たな道を開き、医療の国際化に一歩近づいた
中山太郎(衆議院議員・元外務大臣)
(1998年)臓器移植法は人の死の固有性を剥奪し、身体の際限なき利用を肯定した
小松美彦(玉川大学文学部助教授)
(1997年)臓器移植法廃案――これ以上まだ患者に待てというのか
荒波嘉男(トリオ・ジャパン副会長)
(1997年)脳死移植法はもはや国会議員にはまかせられない。国民参加のもとで議論を
向井承子(ノンフィクション作家)
◆
議論に勝つ
常識
(2005年)[臓器移植法見直しについての基礎知識]
現行法は重症患者の生きる権利を奪っているか?
(2004年)[小児脳死移植についての基礎知識]
子どもからの脳死臓器提供はなぜ許されないのか?
(2003年)それでも脳死移植はやめるしかない――臓器提供が増えない本当の理由
小松美彦(東京水産大学教授)
(2003年)脳死臓器移植についての基礎知識
[基礎知識]脳死者の臓器提供をめぐる問題に何があるか?
(2002年)小児脳死・臓器移植についての基礎知識
小児の脳死・臓器移植をめぐる議論とは何か?
(2001年)臓器移植法と脳死判定基準の争点を知るための基礎知識
(2000年)脳死移植四例がどう行われたかを知るための基礎知識
(1999年)臓器移植法一年目を検証し、ドナー確保を模索するための基礎知識
(1998年)臓器移植法成立の経緯を検証し、死とは何かを考えるための基礎知識
(1997年)臓器移植の法制化の是非を考えるための基礎知識
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