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裁判員の守秘義務
2009.05.21 更新
 無作為に選ばれた国民が裁判に参加する「裁判員制度」が5月21日に始まる。裁判への参加は、21日以降に検察が起訴した重大事件(強盗、殺人、強姦致死傷、通貨偽造など)からとなるため、じっさいに裁判員となった国民が法廷に立つのは7月以降だ。

 日本でも戦前に「陪審員制度」があった(1928~1943)が、これは被告が有罪か無罪かを決めるだけのもので、量刑は裁判官が決めた。今度の裁判員制度は、参加した一般国民が量刑についても判断することになる。判決は、原則として裁判官3名、裁判員6名の判断によるが、有罪の決定に際しては、最低1人の裁判官の賛成が必要になる。なお、裁判員制度が適応されるのは、第一審のみである。

 裁判員制度が導入されることになったのは、内閣に設けられた司法制度改革審議会(99年〜01年)が示した意見書にもとづいて、04年、司法制度改革推進本部が「裁判員法」を国会に提出したことがそもそもの始まりだ。裁判員法第1条に「司法に対する国民の理解の増進とその信頼の向上に資する」と謳われているが、国民の常識を刑事裁判に反映させるというのが導入のおもな理由だ。

 裁判員の選出は、まず裁判所が衆院選の有権者(20歳以上)から「くじ」により「裁判員候補者名簿」を作成する。この「裁判員候補者」は全国で29万人にのぼる。さらに裁判所の書類審査と面接によって正式に裁判員が決まる。裁判員として選ばれたら、特別な理由がないかぎり拒否することはできない。

 交通費や日当(1万円以内)が国から支払われるが、裁判員に選ばれた国民は平日に拘束されるため、仕事や家事・育児に影響が出る可能性があり、反対論は根強い。朝日新聞の世論調査では、8割弱の人が裁判員制度に「できれば参加したくない」か「絶対参加したくない」と答えた(朝日新聞1月9日付)。

 また、ほかの反対理由もある。その一つが、守秘義務だ。今度の制度では、裁判員と裁判官がおこなう評議の内容や、裁判員しか知らない秘密などを漏らしたばあい、6カ月以下の懲役か50万円以下の罰金が科せられることになっているため、守秘義務違反を恐れて裁判員になりたくないという人も多い。いっぽう、裁判には参加したものの、この規定が枷になって、裁判員として得た経験や悩みを独りで抱え込み、その結果国民的な議論に発展しないのでは、という問題点の指摘もなされている。

 さらに、強姦致死傷や集団強姦致死傷といった、被害者のプライバシーに深く関わる事件では、法廷で被害者がさらに傷つく「セカンドレイプ」に繋がる恐れもある。

 これに対して、国民に開かれた司法を目指す動きを評価する声は大きい。世田谷一家殺人事件で妹を失った入江杏さん(公訴時効撤廃を求める「宙の会」幹事)は「懸案はあっても、スタートする以上は国民として意味ある制度にしたい」(産経新聞5月16日付)と新制度に期待を寄せている。昨年には、法廷に被害者が参加できるようになった。裁判員制度が始まる5月21日同日には、検察審査会も制度改革され、これまで検察官のみに与えられていた起訴権限が国民にも開かれることになった。また、裁判員法の附則に3年後に見直し規定が担保されている。これまでともすると、閉鎖的かつ権威的だった司法に民意が注入されることになったのは間違いない。

関連論文

筆者の掲載許可が得られない論文はリンクしていません。
96年以前の論文については随時追加していきます。ご了承ください。

私の主張
(2009年)まるで「違憲のデパ―ト」――欠陥だらけの裁判員制度を延期すべきである
西野喜一(新潟大学大学院教授、元判事)
(2009年)現行の裁判制度が冤罪を生む限り、私は裁判員制度に賛成せざるを得ない
佐野眞一(ノンフィクション作家)
(2008年)量刑判断が素人にできるか。裁判員は世間の感情に悪のりした制度である
嵐山光三郎(作家)
(2008年)「正義」と言い張り、国民に説明責任を果たさない刑事弁護人を告発する
橋下 徹(弁護士)
(2008年)被告人の援助に徹することで公正な裁判を実現する。それが弁護人の使命
前田裕司(弁護士)
(2007年)裁判官が法律のプロならこっちは人生のプロ ――みんなで法廷へ行こう
北尾トロ(フリーライター)
(2006年)裁判員制度の難関は知識と経験の違う法律家と市民が行う評議にあり
森野俊彦(京都家庭裁判所判事)
(2005年)市民参加の司法ができる――裁判員は被害者の声を伝える伝道師になれ
片山徒有(あひる一会代表)
(2005年)裁判員制度には数々の憲法違反あり。裁判の実際にも適応できない
大久保太郎(元東京高等裁判所判事)
(2004年)検察審査会という最高の会議を知れば、裁判員制度は正しい選択である
佐野 洋(作家)
(2004年)裁判の公正さを損なう裁判員制度の導入は明らかに司法改悪である
長谷川三千子(埼玉大学教養学部教授)
(2002年)弁護士増員、裁判員制度の導入は、司法を国民のものにする第一歩である
中坊公平(弁護士、司法制度改革審議会委員)
(2001年)陪審制こそ、司法に国民の息吹を注入する開かれた制度である
堀野 紀(弁護士・日本弁護士連合会司法改革推進センター委員長・人権擁護推進審議会委員)
(2001年)陪審制は国民が国と社会に対する責任を自覚しているか否かの試金石
櫻井よしこ(ジャーナリスト、元ニュースキャスター)

議論に勝つ常識
(2009年)[裁判員制度についての基礎知識]
[基礎知識]裁判員制度の積み残された課題とは何か?
(2008年)[裁判員制度についての基礎知識]
[基礎知識]裁判員制度で公正な裁判は実現するか?
(2008年)[弁護士のあり方についての基礎知識]
[基礎知識]弁護士量産時代――質の低下は防げるか?
(2007年)[裁判員制度についての基礎知識]
[基礎知識]国民が裁判に参加しやすくなったか?
(2006年)[裁判員制度についての基礎知識]
[基礎知識]裁判員制度の導入で裁判がどう変わるのか?
(2005年)[裁判員制度についての基礎知識]
裁判員制度開始まであと五年。何が課題か?
(2004年)[司法改革についての基礎知識]
裁判員制度と裁判の迅速化は実現するのか?
(2002年)司法改革についての基礎知識
国民が裁判に参加する裁判員制度とは何か?
(2001年)陪審裁判の方法と司法改革の歴史を知るための基礎知識



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