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裁判員の量刑判断
2009.08.06 更新
国民が刑事裁判の審理に参加する、日本で初めての裁判員裁判が3日始まった。裁判で裁判員をもっとも悩ませると思われるのが、執行猶予から死刑まで、広範囲の刑罰の選択、いわゆる量刑の判断だ。
抽選や面接を経て裁判員に選ばれると、裁判員は約5日間にわたっておこなわれる公判で、検察や弁護側の意見を聞いた上で、最後に事実認定と量刑を決める評議をおこなうことになる。事実認定と量刑判断の評議では、裁判員(6人)と裁判官(3人)は9人の全員の意見が一致するように努めなければならないが、それでも判断が分かれれば、多数決ということになる。たとえば、有罪か無罪かを多数決で決める場合は、有罪を主張する者が多くても、その中に裁判員と裁判官の両方が含まれていなければならない。つまり、裁判員ばかり6人が有罪を主張しているようなときは、被告人無罪となる。
この評議で有罪と決まると、次に量刑を決めるが、ここで裁判員と裁判官9人の判断が分かれた場合には、「裁判官及び裁判員の双方の意見を含む合議体の員数の過半数の意見になるまで、被告人に最も不利な意見の数を順次利益な意見の数に加え、その中で最も利益な意見による」(裁判員法67条2項)と定められている。
たとえば、仮にその公判が強盗傷害罪なら、その「法定刑」は「懲役6年から無期懲役まで」と決められているので、その範囲で判断することになるが、そこで以下のように意見が分かれたとする。
(1)懲役10年を主張する人が1人
(2)懲役9年が2人
(3)懲役8年が2人
(4)懲役7年が1人
(5)懲役6年が3人
このケースでは、「被告人に対して最も不利な意見」である(1)を、次に不利益な(2)に加える。(1)+(2)では、過半数の5人に達していないので、さらに(3)を加えることで過半数になる。「その中で最も被告人に対して利益な意見」が採用されるので、(3)の懲役8年が評決の結論となる。ただし、この場合も、過半数の中に裁判員と裁判官の両方が含まれていなければならない。
量刑を決める際の基準のひとつとなるのが「法定刑」だ。殺人罪は「懲役5年から死刑まで」といったぐあいに、犯罪の軽重によって法律で量刑の限度が決められている。裁判員としては、量刑を決める際に、同じような罪を犯した人にどのような刑が言い渡されたのかという判例、つまり「量刑例」が必要だ。そこで最高裁は、裁判員の判断の参考に、と簡単に裁判員が過去の判例を調べられるように、「量刑検索システム」を設けている。
このシステムには、昨年4月以降に言い渡された判決約2000件以上のデータが蓄積、凶器の種類や計画性の有無などの数種類の項目を入力すれば、類似した事件の量刑の範囲や分布状況がグラフで示される。検察官や弁護人も検索できるシステムだ。
裁判員制度の導入が議論されたとき、こうした裁判がおこなわれれば、厳罰化が進むのではないかという指摘があった。現に、06年に最高裁が、国民(1000人)と裁判官(766人)を対象におこなった量刑意識調査では、国民の8割が従来の裁判官の量刑判断に「軽い」というイメージを持っていることがわかった。
この調査は、10通りの事件について量刑判断を問うもので、平均懲役5年程度の事件に死刑を主張した国民がいたり、少年事件や飲酒事件の刑を裁判官より重くする国民が目立ったという。「量刑例」については、積極的に参考にしようと考える裁判官が66%いたいっぽう、国民は22%にとどまった。
さらに、昨年の12月から被害者や遺族が裁判に参加できるようになったことが、裁判員の量刑判断に大きく影響を与えると危惧する識者も多い。被害者や遺族が、裁判員の感情に訴えることで、重刑を求めることもあり得るからだ。裁判員制度の第一号裁判となった、足立区の女性殺害事件で被告の弁護を務める伊達俊二弁護士は「被害者参加の影響はあると思う」(日本経済新聞8月5日付)と、法廷での被害者や遺族の存在感の大きさを指摘する。
しかし、前述したように量刑判断の多数決では、過半数かつ裁判員と裁判官の両方の意見が入らなくてはいけないため、裁判員の中に極端な量刑を主張する人がいてもバランスある判決にまとまる可能性が高く、実際には懸念されるほど厳罰化が進むとは限らないという声もある。
関連論文
筆者の掲載許可が得られない論文はリンクしていません。
96年以前の論文については随時追加していきます。ご了承ください。
◆
私の
主張
(2009年)まるで「違憲のデパ―ト」――欠陥だらけの裁判員制度を延期すべきである
西野喜一(新潟大学大学院教授、元判事)
(2009年)現行の裁判制度が冤罪を生む限り、私は裁判員制度に賛成せざるを得ない
佐野眞一(ノンフィクション作家)
(2008年)量刑判断が素人にできるか。裁判員は世間の感情に悪のりした制度である
嵐山光三郎(作家)
(2008年)「正義」と言い張り、国民に説明責任を果たさない刑事弁護人を告発する
橋下 徹(弁護士)
(2008年)被告人の援助に徹することで公正な裁判を実現する。それが弁護人の使命
前田裕司(弁護士)
(2007年)裁判官が法律のプロならこっちは人生のプロ ――みんなで法廷へ行こう
北尾トロ(フリーライター)
(2006年)裁判員制度の難関は知識と経験の違う法律家と市民が行う評議にあり
森野俊彦(京都家庭裁判所判事)
(2005年)市民参加の司法ができる――裁判員は被害者の声を伝える伝道師になれ
片山徒有(あひる一会代表)
(2005年)裁判員制度には数々の憲法違反あり。裁判の実際にも適応できない
大久保太郎(元東京高等裁判所判事)
(2004年)検察審査会という最高の会議を知れば、裁判員制度は正しい選択である
佐野 洋(作家)
(2004年)裁判の公正さを損なう裁判員制度の導入は明らかに司法改悪である
長谷川三千子(埼玉大学教養学部教授)
(2002年)弁護士増員、裁判員制度の導入は、司法を国民のものにする第一歩である
中坊公平(弁護士、司法制度改革審議会委員)
(2001年)陪審制こそ、司法に国民の息吹を注入する開かれた制度である
堀野 紀(弁護士・日本弁護士連合会司法改革推進センター委員長・人権擁護推進審議会委員)
(2001年)陪審制は国民が国と社会に対する責任を自覚しているか否かの試金石
櫻井よしこ(ジャーナリスト、元ニュースキャスター)
◆
議論に勝つ
常識
(2009年)[裁判員制度についての基礎知識]
[基礎知識]裁判員制度の積み残された課題とは何か?
(2008年)[裁判員制度についての基礎知識]
[基礎知識]裁判員制度で公正な裁判は実現するか?
(2008年)[弁護士のあり方についての基礎知識]
[基礎知識]弁護士量産時代――質の低下は防げるか?
(2007年)[裁判員制度についての基礎知識]
[基礎知識]国民が裁判に参加しやすくなったか?
(2006年)[裁判員制度についての基礎知識]
[基礎知識]裁判員制度の導入で裁判がどう変わるのか?
(2005年)[裁判員制度についての基礎知識]
裁判員制度開始まであと五年。何が課題か?
(2004年)[司法改革についての基礎知識]
裁判員制度と裁判の迅速化は実現するのか?
(2002年)司法改革についての基礎知識
国民が裁判に参加する裁判員制度とは何か?
(2001年)陪審裁判の方法と司法改革の歴史を知るための基礎知識
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