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取り調べの可視化法案
2010.01.28 更新
 民主党が、マニフェストに掲げている警察や検察による取調べを録音・録画する可視化法案を今国会への提出、成立をはかる動きが急浮上している。志布志事件、足利事件のような冤罪をなくすことが目的だが、警察や検察は、捜査の障害となることを理由に反対している。民主党が法案提出を急ぐのは、小沢幹事長や鳩山首相の“政治とカネ”が問題になっているなか、検察に対するけん制だとの見方も出ている。

 取り調べの全面可視化法案が話題になるのは、今回が初めてではない。裁判員制度のスタート(09年5月21日)に先立って、日本弁護士連合会が「一部の録音・録画では虚偽の自白をさせられた場面だけが証拠になり、冤罪防止につながらない」と全面可視化を要求、08年2月から09年5月までのあいだに110万人超の署名を集めて国会に提出していた。このとき野党だった民主党は、07年、09年と二度にわたって議員立法で法案を提出、参院法務委員会で審議され、可決されながらも、衆院では審議未了で廃案になっていた。

 法案提出の意義について、昨年4月23日、発議者の松岡徹民主党参院議員は、「取り調べの全面可視化は、無実の者を誤って処罰することほど重大な不正義はないという刑事訴訟の要請に合致するし、時代の要請でもある。強大な権力である検察や警察権の行使を適正化する必要な制度改革だ」と強調した(取り調べ可視化法案の審議において)。

 検察庁ではすでに06年8月から東京地検などで取調べの一部を録音・録画し、08年4月からは全国で試行している。警察も、08年9月から捜査官が供述調書を読み上げ、被疑者に確認の署名を求める場面の録音・録画を始めたが、全面可視化となると、検察・警察ともに絶対反対の立場だ。

 その理由として、被疑者に(真実の)供述をためらわせる要因となり、(事件)関係者のプライバシーにおよぶことなどは話さなくなる、その結果(1)取り調べの機能を損ない、真相を十分に解明し得ない重大な問題がある、(2)裁判において真実を追求する以前に、真相が解明できないため、検挙や起訴そのものを断念せざるを得ない事例が多々生じ、真犯人を野放しにし、治安に悪影響を及ぼすおそれが生じかねない――をあげている(09年4月、当時の森英介法相発言)。

 ではなぜ、再び可視化法案の提出が急浮上したのか。背景には、小沢幹事長の“政治とカネ問題”の捜査過程で「検察のリーク」とみられる捜査情報がマスコミで次々と報じられたことが直接の引き金になったとみられている。輿石東参院議員会長(幹事長代行)は、1月20日の参院議員総会で、「可視化法案を今国会に提出すべきという意見がある。執行部もきちんと対応したい」と前向きな発言をした。これに対し、自民党の大島理森幹事長は「与党権力を使い、法と証拠に基づく検察捜査に対する挑戦という動きとみられても仕方ない」と批判(22日)した。

 鳩山首相は「検察批判と受け止められる可能性がある」と法案提出に慎重な姿勢を示し、中井国家公安委員長も22日、「拙速は一番まずい。落ち着いて、捜査手法の近代化という大きな枠組みのなかで勉強するのが一番いい」と、2月から捜査のあり方に関する研究会を設置することを明らかにした。

 先進国では、取り調べの可視化は、アメリカ、イギリス、オーストラリア、フランスなどが採用している。ただ、こうした国々では、わが国独特の「取り調べ」を中心とした捜査手法とは異なり、たとえば、全面可視化をいちはやく導入しているイギリスでは、自白による減刑や司法取引といった捜査手法や、通信傍受、会話傍受、おとり捜査、潜入捜査などが合わせて採用されており、黙秘は有罪と推定されてしまう。

 元東京高検検事の土本武司氏は、自身の捜査体験を踏まえて「欧米諸国と異なり、日本人被疑者の場合は、捜査官への自白が罪責感情を軽減させる機能を果たしている」と指摘、録音・録画は、自白を困難にするとして可視化に反対している(産経新聞「正論」07年10月19日付)。

 これに対し、ルポライターの鎌田慧氏は「可視化法案は、なにも小沢さんの問題がでてきたから、急にだされたものではない。人権侵害、違法捜査をなくすための法律なのだ。だれでも間違って逮捕されれば、取り調べは公明正大にやってほしい、と望むはずだ」(東京新聞2010年1月26日付)と法案に賛成している。

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