鳥取・埼玉の連続不審死事件(通称、結婚詐欺事件)では、初動捜査の段階で殺人事件の可能性を見逃したことが指摘され、あらためて検視制度の不備が明らかになった。検視制度とは、犯罪による死亡か否かを調べることで、検視官によって犯罪死の可能性が指摘された死体は、解剖医にまわされることになっている。
日本では、年間約100万人が死亡しているが、そのうち自然死以外の死体(異常死体)は約16万体にのぼる(2009年)。これに対し、検視官は全国に196人(同年4月現在)。警視庁によれば、じっさいに現場に出動(臨場)して調べた死体は、わずかに3万2676体で、全体の20.3%を占めるに過ぎない。ということは、それ以外の死体(12万人強)は、検視官不在のまま犯罪性の有無が判断されたことになる。また、解剖まで至った異常死体も1万6184体で、そのうち犯罪の疑いが残るとして司法解剖されたのは6569体、犯罪性は薄いが死因が分からないケースの行政解剖は9615体だという。
こうした状況を受けて、警察庁は、2010年度には検視官20人を増加、検視官補助者を40人増やすことにしている。検視官になるには、原則10年以上の刑事経験があり、警察大学校で法医学を学んだ警視という条件がある。ちなみに、刑事訴訟法(229条)では、検察官が検視をおこなわなければならないと規定されているが、検察事務官又は司法警察員に代行させることができるため、大半のケースでは、警察の検視官が変死体の検分をおこなっている。
検視は、警察嘱託医の立ち会いのもとにおこなわれるが、かねて犯罪性の見極めの限界が指摘されてきた。というのも、検視は、視診や触診など体の表面を調べる外表観察がおもなため、毒物や薬物の投与まで見抜くのは困難だといわれてきた。そこで警察庁は、07年、時津風部屋の力士暴行死事件を機に、09年度から死体をコンピューター断層撮影(CT)で診断する携帯型超音波検査装置(エコー)を導入、まず山形、栃木、石川、和歌山、徳島の5県警に配備、活用させていた。
1月29日、警察庁は法医学の専門家ら有識者らも交えて「死因究明制度のあり方に関する研究会」の初会合を開いた。検視官不足によって犯罪による死亡が見落とされているとの反省に立ち、他省庁まで広げたテーマを設定、死因究明の精度を向上させたいとしている。4月からは「検視指導室」を新設し、現場への指導を強化する方針だ。
検視・司法解剖問題に詳しいジャーナリストの柳原三佳氏は、法医学の専門家ではない検視官が犯罪性の有無を判断することは難しい、と指摘したうえで、「死因を正確に判断することは、犯罪を見逃さないだけでなく、伝染病や事故の再発防止、また適正な保険金支払いなど、生きている者の権利を守ることでもある。この問題はもはや警察庁だけで解決できるレベルではない。縦割り行政を見直し、厚労省、文科省など関係省庁との連携を深めたうえで、現行制度の抜本改革が急がれている」と強調している(『日本の論点』09年版)。
研究会のメンバーでもある岩瀬博太郎・千葉大医学部教授も同様に、「事件性の有無だけでなく、事故死の死因も究明し、再発防止につながる制度をつくるべきだ」と提案(読売新聞2月2日付)している。
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