「貧困ビジネス」とは、貧困問題に取り組んできたNPO法人「もやい」の湯浅誠事務局長(内閣府参与)が07年につくった造語で、生活保護受給者など、弱い立場の人々から、金を巻き上げるビジネスのことだ。手口としては、住み込み派遣、敷金・礼金なしのゼロゼロ物件、あるいは無料低額宿泊所と称して割高な食事や宿泊代を徴収する悪徳施設、高利の消費者金融、ヤミ金融など、生活困窮者を食い物にする業者を指す。
いまやこうした商売は、医療の分野にまで入り込んでいる。2月6日、奈良県大和郡山市にある山本病院の理事長、医師らが業務上過失致死の容疑で逮捕された。二人は、専門医ではなく、麻酔医も不在のまま肝臓がんの手術をおこなったとされ、輸血の準備や止血措置をおこたったため大量出血死させた疑いがもたれている。この病院では、患者数の半数強を生活保護受給者が占め、他の病院との間で入退院を繰り返させるなどして診療報酬を不正に受給していた。
2月5には、路上生活者から生活保護をピンハネしていた宿泊施設の大手FISが、3年間で計5億円の所得を隠していたとして、経営者が起訴された。関東地方や愛知県に20施設以上を持つFISは、路上で寝泊りする人に声をかけて生活保護費を申請させ、月々の使用料を、宿泊代のほか食事代などさまざまな名目で保護費から天引きしていたため、かねてから住居者との間のトラブルが報道されていた。
通称に「無料低額宿泊施設所」といわれる福祉施設は、自治体に届け出さえすれば個人でも運営できる。厚生労働省の調べによると、こうした施設は全国に439あり、入所者は約1万4000人。これ以外にも無届けの施設が少なくとも1400以上あるという。
『貧困ビジネス』(幻冬舎新書)の著作があるエコノミストの門倉貴史氏によると、これらの施設の多くが、プレハブのような住居をつくり、生活困窮者に住居や食事を提供して、生活保護費からピンハネする、「貧困ビジネス」の典型例だと指摘する(「週刊新潮」2月4日号)。さらに、近年は、家賃の滞納を理由に強引に退去させる「追い出し屋」と呼ばれる悪徳業者も増加している。追い出された人は、やむなくこうした施設への宿泊せざるをえなくなるわけだ。
ちなみに生活保護とは、すべての国民に、ナショナル・ミニマム(健康で文化的な最低限度の生活水準)を保障する憲法25条に基づく公的扶助制度で、最後のセーフティーネットといわれている。生活保護の受給世帯数は90年代から増加し、08年度は115万世帯にのぼった。食費や被服費、光熱費の扶助のほか、住宅扶助、医療扶助など8項目の生活扶助から成る。たとえば東京23区の09年度の生活扶助は、標準3人世帯(33歳、29歳、4歳)で月額16万7170円(09年4月9日「キーワード」を参照)。保護費は、税金でまかなわれ、国が4分の3、自治体が4分の1を負担している。
貧困ビジネスについて、前出の湯浅氏は、「政策的貧困が、NOと言えない労働者、NOと言えない消費者を作り出し、その窮状に貧困ビジネスが便乗しているにすぎない」として、業者よりも、むしろ「派遣切り」を規制できない行政の責任欠如を訴える(「世界」08年10月号)。
こうした現実を受けて、厚労省は昨年10月、無料低額宿泊施設のあり方に関する検討チームを設置、10年度から優良施設に運営費の助成(約10億円)をおこなうことを決めた。助成金は、全国約100か所の施設の職員の人件費などに充てられる。また生活保護費のピンハネを防止する規制を強化する検討も始めた。
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