報道によると、5月16日、原発事故にかかわる東京電力の賠償スキーム(枠組み)について、政府関係者が、公的資金投入の財源として、政府は10兆円規模の「交付国債」を発行すると、野党側に伝えたといわれる。この点について、枝野幸男官房長官は、17日の記者会見で「金額は、現時点で政府として統一的に決定したものではない。ひとつの見通しを担当者の判断で説明したものではないか」と語った。
交付国債とは、今回の原発事故の賠償金のように、支出がどこまで膨らむか見通せないとき、あらかじめ国が機関などに対して発行しておく無利子の国債のことで、機関は必要なときに換金できる。記名式で、譲渡や処分はできない。資金借り入れのために発行される通常の国債とは性質が異なり、政府は支払いを要求された時点で初めて予算措置をおこなう。仕組みは、国際機関に資金を出す場合によく使われる拠出国債、出資国債とほぼ同じかたち。
現在、政府が検討しているのは、公的資金投入の受け皿として新たに「原発賠償機構」(仮称)を設立し、この新機構に交付国債を割り当て、東電の賠償資金に充てるというものだ。今回の原発事故における賠償規模は1兆円を超えるとみられ、東電の支払能力を超えることが背景にある。政府は東電以外の各電力会社にも1000億円の負担を求めていて、新機構を原発災害の補償機関として位置づけたい考えだ。東電の破綻や国有化を避け、株主や、債権者の損失も極力抑えるための苦肉の策だが、最終的には電気料金にはね返る恐れもあり、批判も多い。
交付国債は、国が履行すべき債務を、収入金の手当をせずに、国債を交付することによって金銭に代えるもので、これまでは、戦争の被害を受けた国民への弔慰金や救済・補償金を支払う目的で交付された。また、破綻した金融機関に対する資金援助業務、一般金融機関からの資産買収業務、資本増強業務などでも交付された。1997年の金融危機のときは、金融システム安定化のために預金保険機構に設定した公的資金枠に10兆円の交付国債を充てている。
国債は、発行目的、根拠法、償還年限、発行方式、利払い方式などによって分類される。利払い方式では、「利付国債」(各利払い期の利息支払いを約束するクーポンが付く。2、5、10、15、20、30年ものがある。10年ものには、変動利息付きの個人向け国債がある)と、「割引国債」(利子の支払いがなく、償還期限までの利子相当分があらかじめ額面金額から差し引かれる。6カ月、1年の割引短期国債がある)に分けられる。
発行目的による分類では、「歳入債」(いわゆる普通国債で、歳入の調達が目的。建設国債と赤字国債に分けられる)、「繰延債」(交付国債や出資・拠出国債のことで、財政資金の支出に代えて発行し、償還日まで支出を繰り延べる)、「融通債」(政府短期証券のこと。国庫の資金繰りのための債券で一時的に発行するもの)がある。
東日本大震災復興のための財源として、目下、話題になっているのが「復興国債」だ。山岡賢次・民主党副代表や中川秀直・自民党元幹事長らが「20兆円規模の復興国債を発行し日銀に引き受けさせる」ことを提案。岡田克也幹事長も4月18日の記者会見で、「復興再生債」の発行を目指す方針を明らかにした。税法上は赤字国債と同様だが、使途や償還期限を明確にすることで赤字国債とは区別される。
内閣府の試算によると、大震災による道路、空港、港湾設備や住宅などの直接的な被害総額は、約16兆〜25兆円と定まっていない。さらに、これに原発被害や放射能漏れによる農業、漁業の被害補償などが加わっており、総額は膨大になると予想される。ちなみに阪神・淡路大震災は約10兆円だった。
2011年度の一般会計予算(3月29日成立の当初予算)は税収41兆円に対して新規国債発行額は約44兆3000億円。このうち建設国債を除く赤子国債は37兆円で、一般会計の約4割を占める。去年の国債発行額がやはり44兆3000億円だったから、2年連続で税収を上回る事態となっている。なお国債や借入金などを含めた累積の「国の借金」は、10年度末で924兆円、11年度末には1000兆円を超える見通しだ。
前日銀副総裁で、元財務省事務次官の武藤敏郎・大和総研理事長は、ロイターニュースのインタビューに答え、「想定被害総額は、原発の影響を含めて30兆円超に達する可能性がある。このうち原発の被害は5兆〜10兆円とみている。阪神・淡路大震災の復興資金分担は、国・地方・民間で4対3対3だったといわれるが、これを当てはめると、今回、国の負担は10兆円をかなり超える額になるイメージだ」として、その財源確保について次のように述べている。
「赤字国債の発行は最悪の選択だ。阪神・淡路大震災当時とくらべてプライマリーバランス、政府の長期債務残高、国債格付けのどれを見ても悪化している。財政赤字の拡大で対処すれば、市場の信認を失って国債価格が下落し、金利が上昇するリスクがある。万一そうなれば、資金調達難になり、復興支援そのものに支障をきたす。(中略)3年間は元利償還を据え置く『復興国債』を発行して、その間の資金調達をおこない、その後の増税によって償還に充てる」
また「復興国債」の日銀引き受けについては、「絶対にやるべきでない。国債の市場での消化が困難になれば引き受けもやむを得ないが、今はそうした状況にはない。こうした中で、日銀が国債を引き受ければ、世界から日本の市場に異常が起きているとみられ、マーケットに悪影響を与える」と、反対の理由を述べている。(5月16日、プレジデントロイターより)
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