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論 点 「裁判員に公正な判断は可能か」 2008年版
量刑判断が素人にできるか。裁判員は世間の感情に悪のりした制度である
[裁判員制度についての基礎知識] >>>

あらしやま・こうざぶろう
嵐山光三郎 (作家)
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仕立屋が手術にかり出されるようなもの
 裁判員制度は「市民の司法参加」というお題目で政府がPRするけれども、ようするに、お上が「一般国民にも裁判官をやらせてやるから、おまえら、指名されたら断るんじゃないぞ。断ったら罰金だ」といっている。裁判官の徴兵制というべき制度である。
 私が裁判員に指名されたら、国外逃亡するしかない。真剣にそう考えている。ほとんどの国民は裁判の素人であって、他人を裁くことはできない。
「人を裁く」という行為を、感情を入れずに客観的に実行するのが裁判官で、裁判のキャリアをつんでいない人に判決を下すことはできない。
 私が裁判員ならば、有罪を示すデータを検察官に出されれば、もとよりカッとくる性格だから、「とんでもねえ野郎だな。こんな凶悪犯人は死刑にしちまえ」と思うだろう。
 最近の殺人事件は、テレビのニュースをきいただけで頭に血がのぼる凶悪なものが多く、「こいつは死刑だ」と予測する。けれど、死刑にされて当然と思う人が無期懲役になると、なんとなく腹だたしい。裁判員制度が世に出てきたのは、そういった世間の感情に悪のりしている。
 いかなる凶悪殺人犯であっても、殺したほうにもそれなりの背景があって、その事情を弁護士が弁護する。告発する側と弁護する側がいて、双方の言い分をきいて、最終的に判決を下す。
 これは経験をつんだ法知識のある職業裁判官でなければ、できることではない。素人には量刑の判断が不可能で、あてずっぽうの市民感覚ではきめられない。懲役三年と一〇年と二〇年はどこが違うのか。無期懲役と死刑の判断はどこにあるのか、わからない。これは職業裁判官も同様であって、過去の量刑相場が判断の基準になる。職業裁判官は、過去の量刑相場(アンチョコ)に従って判決という答えを出す。
 私は、情にもろい人間でもあるから、弁護士の弁護をきいているうち、「なるほど、気の毒な生いたちで、今回に限り無罪放免にしてやりたいなあ」と同情する。さきほどまで「死刑にしろ」と考えていたのに、コロリと変わってしまう。
 そうこうするうち、どう判断したらいいかわからなくなる。だけど、一週間そこらで判決を出さなければならない。迷っているうち、職業裁判官に誘導されて、「まあ、過去の判例ではこんなところでしょう」といわれて、それに従う。
 なにもわからぬ素人が、プロのいいなりになって、判決を下すことになる。洋服の仕立屋がガンの手術にかり出されるようなものだ。


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あらしやま・こうざぶろう
嵐山光三郎

1942年静岡県生まれ。国学院大学文学部卒。平凡社に入社し雑誌『太陽』編集長を経て独立、エッセイスト、作家として活躍中。2009年に始まる、国民が司法に参加する「裁判員制度」に疑問をもち、「裁判員制度はいらない! 大運動」の呼びかけ人として反対運動を展開している。著書に講談社エッセイ賞を受賞した『素人庖丁記』、泉鏡花文学賞・読売文学賞をダブル受賞した『悪党芭蕉』のほか『文人悪食』『追悼の達人』『芭蕉紀行』『人妻魂』などがある。



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