福田首相は、洞爺湖サミット直前に日本記者クラブでおこなった演説で、地球温暖化対策として排出量取引を取りあげ、こう述べた。「制度の問題点をうんぬんするより、CO2排出に市場価格を与え、市場メカニズムをフルに活用するため、二〇〇八年(平成二〇年)秋から試行に踏み切る」。これを受けて、同年一〇月から自主参加の企業間での試行が始まっている。しかし福田発言には、見過ごすことのできない問題点が含まれている。温暖化対策と市場メカニズムを結びつけることへの躊躇や懐疑心が、著しく欠けているからである。あえていえば、体制選択論を前にしていることの自覚がないのである。 排出量取引を議論するには、それ以前に、EU(欧州連合)の排出量取引制度(以下EU−ETSとする)に対する日本国内での評価を洗い直す必要がある。いまもなお、EU−ETSは唯一の先行モデルとして、これを賞賛する論調が少なくない。はなはだしくは、これを導入することは無条件に正しく、今認めなければ世界の趨勢にのり遅れるというものもある。だが世界を見渡してみて、排出量取引にこれほど好意的な世論が先行している国も珍しい。 察するに、この世論分布は、マスメディアに大量の好意的意見を載せさせて政策を推し進める、環境省の政治手法による産物である疑いが濃厚である。かつて弱小官庁であった環境庁が最初に手がけたのが水俣病問題であり、権限がないのを埋め合わせるために、マスコミに圧倒的な量の要求記事を書かせて、政策を前に進めてきた。「ムシロ旗作戦」と呼ばれるこの政治手法は、環境省の体質としてビルトインされている。
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