著作権法には、大きく分けて二つの側面がある。(1)理念的な規範としての側面と、(2)現実の我々の生活において、我々の行動を一定の範囲で許可し制限する側面である。 (1)の著作権概念は、純哲学上のものとして議論しうる。一方、(2)の著作権制度の実態は、現実の社会・経済・技術等の諸環境を基礎として、その上に網状に形成された、多様な利害関係者たちの力関係の結果として成立する。筆者は、主に(2)の視点から制度の発達史について研究をしたので、この側面に注目する。 (2)の著作権制度は、活版印刷術の発明で生じた出版(印刷)業を、経済的に成立させうる制度基盤として、一六〜一七世紀に自生的に形成された。それは「他者(社)の出版物の偽版(同一または類似作品の競争的出版)を禁止する」という出版業者たちの業界内規範から始まっている。 一八世紀頃、出版市場の成長とともに、古典作品の印刷を主としていた出版業に、新作の需要が高まる。すると、出版者に対する創作者の交渉力が強くなり、創作者は(1)の権利主張を足がかりにしながら、出版業から生じる経済的利益への取り分を主張し、承認させた。ここに、創作者を権利の源泉と考える近代的著作権制度の基礎が成立する。しかし、その制度は、出版者の権利である「複製禁止」を基礎とし、それ以前からあった業界の慣習を「創作者の権利」の名において再構築するものだった。 その後、著作権制度は、情報諸技術の発展を後追いしつつ基本的な構造を維持して緩やかに拡張され、政治的な妥協による例外規定を取り入れながら、三〇〇年以上にわたって維持された。 ここで、著作権制度の本質を整理すると、 (A)前述の(1)について、作品からの諸利益の源泉が実際に創作を行った者にあり、作品への支配も利益も、(理念的には)すべて彼に帰属する。 (B)前述の(2)について、作品の複製物の出荷量を調整するため(需給調整をして儲けを確保するため)、市場に“実質的に同じ作品”を投入する主体を一つに限定する。すなわち、権限ある主体を除いて「複製禁止」である。
|