公的医療保険制度には「能力に応じて負担し、必要に応じてサービスを受け取る」という社会保障の大原則が適用される。それゆえ、「疾病リスクが高いグループへの医療を制限する仕組み」などというものがあってはならない。 二〇〇八年(平成二〇年)四月から、七五歳以上の老人(約一三〇〇万人)と六五〜七四歳の障害者(約六〇万人)が大原則の適用外とされ、後期高齢者医療制度に組み込まれた。この制度の唯一の目的は、高齢・障害者一人当たりの医療費削減である。 私が主治医として診ている患者は、半数以上が後期高齢者だ。制度について幾人かに尋ねたところ、「戦中・戦後に大変な苦労をして頑張ってきたのに、この年になって邪魔者扱いされるなんて。日本はなんてひどい国になってしまったの」「生まれつき耳が聞こえないので障害者手帳を持っています。六六歳ですが、何の説明もなく後期高齢者にされてしまいました。障害者にしては長生きし過ぎたので差別されなければならないのでしょうか」というような嘆きばかりであった。高齢・障害者医療現場の一医師としての見解を述べる。 まずは、この悪名高き後期高齢者医療制度の生い立ちを見てみよう。一九九九年、医療保険福祉審議会制度企画部会が「新たな高齢者医療制度のあり方について」の意見書で、「独立案」「突き抜け案」「年齢リスク調整案」「一本化案」の四案を提示した。それ以後、日本医師会、各保険者、地方自治体、財界団体等がさまざまな主張を展開したが、高齢者の医療費抑制という目的では一致していた。〇三年、「独立型」制度創設で閣議決定。〇六年五月、国会での十分な審議なしで、強行採決により後期高齢者医療制度を創設する法案が成立。医療費削減の標的とされた高齢・障害者の意見を求める手続きは、実質的に皆無であった。さらに、政府による新制度についての広報活動は実施前の一〇日ほどのみ。こうして、弱者を邪魔者扱いする制度ができたのである。
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