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論 点 「寝たきりをどう防ぐか」 2009年版
正しいリハビリさえおこなえば、脳卒中による寝たきりは防げる
[脳卒中についての基礎知識] >>>

さこうまさはる
酒向正春 (初台リハビリテーションセンター脳卒中診療科長)
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「絶対安静」がなぜ寝たきりを招くのか
 二〇〇〇年(平成一二年)四月の回復期リハビリテーション(以下、リハビリ)制度の導入は日本の脳卒中医療体制を急性期、回復期、維持期の三つの時期に分化した。急性期医療は脳卒中発症から約二週間までの救急・高度医療を司る脳卒中センターが担い、回復期医療は後遺症が残存した場合に約三カ月間の人間回復を実践する回復期リハビリ病棟が担い、維持期医療は回復期卒業後の一生にわたり再発予防や全身管理を司るホームドクター(多くは、開業医)とリハビリ施設、介護サービスが連携し担っている。脳卒中リハビリの概念は「後遺障害はリハビリ病棟へ」という消極的医療から、「人間回復はリハビリ病棟へ」という積極的医療に変貌し、病気治療から人間を治療する「闘うリハビリ」が定着した。
 脳卒中発症後の廃用症候群は急性期医療における急性期リハビリへの認識不足から始まる。脳卒中データバンク2008の急性期脳卒中四万七七六八例の解析では、重度脳損傷例は一一・九パーセントであり、五・一パーセントが死亡し、六・八パーセントが寝たきりとなる。驚くべきことは、急性期病院退院時の発症後二〜四週間目に全介助を要する重症例は四〇・六パーセントという現状である。何と二七・一パーセントに急性期リハビリが施行されていない。
 絶対安静は一般健常人の筋力を一週間で一五〜二〇パーセント、三週間では五〇パーセント低下させる。脳卒中により半身が麻痺した上に、廃用症候群で健常側の筋力が半減しては、歩行どころか、立位、座位すら困難になる。事実、七〇歳以上の高齢者は一カ月以内に早期リハビリが施行されないと屋外歩行の自立は不可能となる。すなわち、廃用症候群は改善を遅らせるだけではなく、高齢者では致命的な機能障害を残すという認識を銘記すべきである。
 脳卒中発症後一カ月以内に開始された早期リハビリ・プログラムが脳組織の可塑性により神経機能を改善させることは世界的な常識である。超急性期の外科的&内科的治療後である脳卒中発症後二四時間以降に神経機能を回復させる最も有効な治療はリハビリと考えられる。脳卒中発症後三日以内の急性期リハビリ実施率は回復期リハビリ制度の導入で四九・五パーセントに増加した。リハビリ実施は一日九単位(一単位二〇分)可能であるが、急性期リハビリは一日平均三単位に過ぎない。急性期治療医の重要なトリアージとして、リハビリ継続が必要な場合は、脳卒中発症後一週間以内に回復期リハビリ病棟への転院アプローチを忘れてはならない。
 回復期医療の問題点は、人間回復のリハビリを実践するチーム医療の質にある。一日九単位のリハビリには三時間を要する。しかし、残りの二一時間が安静臥床、寝たきりでは廃用症候群が容易に発生する。睡眠時間を九時間とすると、残り一二時間の離床した日常生活動作を支えるナースとケアワーカーを中心としたチーム医療の完成度が人間回復を実現させる。
 維持期医療の問題点は、介護保険による維持期リハビリが充実していないこと、老老介護では患者と介護者の認知機能低下による問題解決能力の低下が日常的なことである。問題解決には、ホームドクターやケアマネージャーとリハビリ施設が連携した新しい老老支援制度の導入が必要である。また、自宅退院後に社会参加できる環境がないことは寝たきりをつくる重大な社会問題である。


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さこうまさはる
酒向正春

1961年愛媛県生まれ。愛媛大学卒。医学博士。デンマーク国立オーフス大学脳神経病態生理学研究所客員教授。87年脳卒中を専門とする脳神経外科医となる。2004年「病気を治すだけでなく、人間回復させることが大事」との想いから、初台リハビリテーション病院にてリハビリ医療に携わる。脳卒中診療科長として、脳神経病態生理学画像診断による身体機能回復リハビリの実践と障害者が暮らしやすい環境実現「健康医療福祉都市構想」を提唱する。長嶋茂雄・元巨人軍監督の担当医としても知られる。



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