かつて医師は貧困との戦いに苦しめられた。赤ひげが無料で病人を入院させ、食事と休養を与えて回復しても、退院すれば元の木阿弥である。今は豊さがあだとなる。退院したら元の暴飲暴食、運動不足に再喫煙というのなら、いたちごっこという点でかつてと同じだ。まさに「自分の健康は自分で守る」時代なのだ。とくにたばこは、がん、動脈硬化、COPD(慢性閉塞性肺疾患)、メタボ、糖尿病の元凶だ。だが、たばこには個人の努力では解決しがたい問題がある。受動喫煙の被害とニコチンの依存性だ。 禁煙外来での一年後の禁煙継続者は三割程度である。ニコチンパッチを貼っても最新の禁煙補助薬を飲んでも結局は七割が吸ってしまう。ここで注意すべきは、禁煙を始めて何カ月もたつのに再喫煙してしまう人は、体の依存が原因ではない点だ。なぜそういえるのか。 単純である。何カ月も禁煙していれば体からニコチンは抜ける。ニコチンが切れるから吸いたくなる、という体の依存は治っている。ではなぜ吸いたくなるのか。それは心の依存が残っているからだ。この心の問題をめぐっては、非喫煙者を巻き込み、たばこの真の理解を妨げる、きわめて不都合な状況が生じている。
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