わたしはもともと自販機というものが大嫌いである。無礼だからである。 なぜ無礼かといえば、人間を卑屈にさせるからである。お茶、たばこ、清涼飲料水、その他もろもろ、自販機で物品を買うにあたってはまず硬貨を投入し、商品をえらんでからボタンを押す。そこまではいいのだが、購入者たる人間は機械のずっと下、地面スレスレのところにある取り出し口に手をのばして商品をとらなければならない。背広を着た紳士も、妙齢のご婦人も、みんな身をかがめ、お尻をつきだし、まことにみっともない姿勢で品物をうけとる。あんな物乞いのようなぶざまな格好をさせながら、自販機は機械の分際でデンと構えて、ありがとう、ともいわない。だから無礼だというのである。 そんなしだいで、わたしはよほどのこと―たとえば列車のホームに売店がないとき―がないかぎり自販機でモノを買うことはしない。コンビニであれふつうの商店であれ、ちゃんと人間が販売しているところで買う。元来、商売というのは売り手と買い手が相対で取引するもの。品物の受け渡しだって当然、手を自然にのばしたときの高さ、つまり一メートルくらいのカウンター越し、というのがふつうであろう。それなのに自販機にはその常識も礼節もない。だから、自販機でモノを買うことはしない。 それほどに無礼な自販機の一部が、こんどは売ってやるけど、まず身分証明書をみせろ、と権柄ずくな態度をとるようになってきた。いわずと知れた「タスポ」である。生意気にも程がある。ひとをバカにするのもいいかげんになさい。たばこが欲しくなればたばこ屋で買います。むかしからたばこはたばこ屋さんで買うものであった。自販機という無精な簡便法がそもそもオカシイのである。たばこ屋さんならひと箱買うだけでも「ありがとうございます」といってお愛想笑いをしてくれる。タスポなどという奇っ怪なものの提示を求められることもない。だれが自販機なんか使ってやるものか。
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