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この人の重大発言

写真 「これ以上騒ぎになって欲しくない。遺憾だ。京都独自の判断で中止するというのは風評被害をさらに拡大する」 (朝日新聞8月13日付)
戸羽 太・岩手県陸前高田市市長

京都の伝統行事「五山の送り火」に、津波でなぎ倒された陸前高田市の松の木でつくった薪を燃やして霊を慰めようという計画が、一部住民の反対で二転三転。結局、松の表皮からセシウムが検出され、計画は中止となった。陸前高田市長はこれに抗議のコメントを発した。

■陸前高田の松の薪を燃やすことに賛否沸騰

 福島第一原発から200キロ離れた岩手県陸前高田市にある「高田松原」は、江戸時代に防潮林として植えられた約7万本のクロマツ・アカマツが白砂青松をかたちづくる、日本有数の景勝地だ。しかし15メートルを超える津波は、そんな防潮林を、奇跡的に残った1本を除いて根こそぎさらってしまった。市街地は壊滅、死者・行方不明者は2000人を超えた。

 この被災者の慰霊のために、倒れた松の木を薪にして京都の伝統行事「五山の送り火」で燃やそうという計画が明らかにされたのは、7月上旬のことだった。「五山の送り火」とは、毎年8月16日の夜、京の街をとりまく5つの山でおこなわれる「大文字」「左大文字」「妙法」「船形」「鳥居形」の送り火のことだ。死者の霊をあの世に送り届ける宗教行事ではあるが、古都・京都にとっては夏の観光の目玉でもある。

 しかし、計画が公表された直後から、主催者の京都市や大文字保存会に対し、「放射能汚染は大丈夫か」という声が次々に寄せられ、8月初旬、計画は中止に追い込まれた。ところが、今度は「被災者の慰霊のためなのに、なぜ中止するのか」という抗議の声が、京都市に300件以上も殺到。困った京都市は、別の薪5000本を現地から取り寄せ、8月16日の送り火で燃やすことで事態の収拾を図ろうとした。

 実行を前に、京都市は念のため取り寄せた薪の表皮を削って調べたところ、1キログラム当たり1130ベクレルという微量の放射性セシウムが検出された。このため、市は2度目となる被災地の薪の使用中止を決定。京都市長がじきじきに現地にお詫びに行くと申し出たが、陸前高田市側はこれをはねのけた。冒頭の戸羽市長のコメントには、この間の経緯に対する複雑な思いがこめられている。

 放射線生物学が専門の内海博司・京都大学名誉教授は、「京都市の判断を京都人として恥ずかしく感じる。そもそも薪の表皮を処理してから持ってくる方法もあったうえ、検出された放射性物質の量なら健康には影響しない。市は、『送り火の意味を踏まえ、検出されたが実行する』と言って欲しかった。市は京都の名誉をおとしめるとともに、被災地の風評被害を助長させたといえる」(朝日新聞8月13日付)と憤る。

 汚染松騒動は、次に千葉県の成田山新勝寺に飛び火した。9月の恒例行事「おたき上げ」で高田松原の松を燃やし、死者を供養するという計画が8月14日に公表されると、「よい供養になる」、いや「放射性物質が心配だ」と、県内外から賛否両論の声が殺到したのである。新勝寺側は、表皮をはがして使うこと、念のため放射性物質の検査を実施し、微量でも検出されれば燃やさないことを明らかにした。

■焼却処分に放射線量の基準がない

 各地でこうした騒動が起きるのも、環境省が「何ベクレルまでなら燃やしてよいか」という、焼却処分可能な放射線量の基準を示していないことに原因がある。自治体側としては、あくまで国に安全基準を出してもらって、その範囲内で処理する、つまりは独自の判断をして責任を追及されたくない、というのが本音だ。今回、京都市で使用する予定だった薪について、環境解析学の専門家、山崎秀夫・近畿大学教授は、「1キログラム当たり約1000ベクレルという値は一見大きく見えるが、表皮だけを集めて測っているため、薪全体の濃度は、これよりかなり低いはずだ。もし500本の薪全体がこの濃度だとしても、燃やして二次汚染が問題になる量ではない」(朝日新聞8月13日付)と、その危険性を否定している。

 津波でなぎ倒された防潮林は、震災のがれきの一種である。福島第一原発から放出された放射性物質による汚染は、こうしたがれきをはじめ、土壌、樹木、落ち葉、農産物、水産物、水、浄水処理の際に出る汚泥など、きわめて広範囲にわたっている。このため、安全基準の設定や処分場の整備といった国の対策が追いつかず、除染や埋め立てが滞っているのが現実だ。

 子どもをもつ人々にとって、もっとも気になるのが学校の土壌汚染である。国は4月に児童生徒の年間被爆量を20ミリシーベルトと決めているが、これは国際放射線防護委員会(ICRP)が定める緊急時(原発事故直後)の被曝限度量を参考にしたもので、平常時なら年間1ミリシーベルト以下が望ましいとされる。国は2学期を前に基準の見直しをするというが、それを待たずに、国よりも低めの基準を定めた自治体も多い。

 たとえば東京都足立区では、区立の小中学校109校のうち、区の基準(毎時0.00025ミリシーベルト、年間に換算すると1ミリシーベルト程度)を上回る値が砂場から検出された19校では、砂の入れかえ工事を実施、校内に穴を掘って、古い砂を60センチより深い層に埋める作業を進めている。これにかかる費用は約2000万円。国は空間線量が基準値以上の学校に財政支援をすることを決めているが、足立区のように国の基準値より厳しい基準を定めている自治体は自己負担となる。財政の厳しい自治体ではそうした費用は負担できないため、結局、砂の入れかえはできない。同じ放射能汚染に見舞われながら、除染作業のできる学校とできない学校が存在することになるが、政府は何の手も打っていないのが現状だ。

■いまだ処理法が決まらない高濃度汚染汚泥

 もうひとつ、今後深刻になっていくと見られているのが汚泥の汚染である。福島第一原発から200キロメートル以上離れた東京や千葉でも、下水処理場の汚泥や、汚泥の焼却灰から高濃度の放射性物質が検出されている。これまでの最高値は江戸川区の「葛西水再生センター」の汚泥が1キログラムあたり5万3200ベクレル。「高田松原」の松が1キログラムあたり1000ベクレルだったのと比較すると、いかに汚染度が高いかがわかる。

 原発事故以前は、国は浄水汚泥について放射線量の安全基準を設けておらず、汚泥はこれまでペレットに加工してセメントや肥料として再利用してきた。ところが原発事故以後、とりわけ放射性物質があちこちで検出されるようになってからは、自治体は汚泥を再利用に回すことをやめ、処理場に山積みにして保管してきた。下水処理場に放射線量の高いホットスポットが出現したのはこのためだ。

 国が処理基準を決めたのは、放射能の飛散がわかってから3カ月後の6月16日。それも、「放射性セシウムが1キロ当たり8000ベクレル以下であれば、跡地を住居などに利用しない前提で埋め立て処分ができる。8000〜10万ベクレルなら住宅地と適切な距離を保った上で管理型処分場に仮置きできる」としているが、10万ベクレルを超える高濃度の汚染汚泥の場合は、「コンクリートで遮蔽できる施設で厳重保管する」と定めてはいるものの、肝心の最終的にどう処分するかについては決まっていない。

 埋め立て処分が可能な汚泥についても、埋め立て用地を提供してくれる土地所有者など容易に現れるはずもない。しかも、「廃棄物はそれが発生した地域で処理するのが原則」と法律で定められているため、他県に処分場を探すわけにもいかず、結局、汚泥は下水処理場に保管されたままになっている。

 NHKが17都県についておこなった調査によれば、これまでに下水処理場から出た放射性物質を含む汚泥は、少なくとも5万4400トン。このうち75%は埋め立ての可能な汚染レベルだったが、全体の半分にあたる2万7700トンが処分できず、倉庫などに保管されているという。政府・与党は次の国会に向けて最終処分に関する法整備を準備中だが、汚泥はその間もたまっていくいっぽうだ。



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