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父の骨ぐらいで東京湾で漁業をいとなんでる人に迷惑がかかるとは思えないんですが。まあいいや。それより、なんだってまた、そんな時代に逆行するような条例ができたんです。これからの時代は散骨でしょう。
「ふむ。札幌にある会社が、長沼町に買った土地で、樹木葬という散骨ビジネスを始めたのだ。1区画4平方メートルの土地を、永代使用料として52万5000円で売り出した。そこに好きな花や木を植えて、散骨する。お参りに行くと、おじいちゃんのお骨はここにあるのよ。というわけだから、君のように海に投棄しようというのとはちょっと違う。墓碑はたっていないけど、見た目は公園墓地みたいなもんだ。ただ、地下に骨壷を入れるカロートはない。地面に直接撒くわけだから。それで住民が強力に反対した。
理由はなんだかというと、気持ち悪くて井戸水が飲めないとか、農作物が風評被害をこうむるとか」
軟弱ですねえ。焼いた骨なんて清潔なもんでしょうが。50年前ぐらい前は人間のウンコ撒いた畑で作った野菜を平気で食ってサナダムシ飼ってた我々が、なにをいうやらって感じですが。
「まあそんな理由で、事実上、散骨ができなくなっちゃって、業者は町に対して損害賠償の請求を検討している。国の法律では規制されてないんだからな。それに散骨といっても、骨をゴロゴロ地面に撒くわけじゃないんだ。骨をまず細かく砕く。骨というのは火葬しただけでは灰にならないから、砕いて粉末にしてしまう。どうやってするのかというと、たとえば「葬送の自由を進める会」というのが推奨しているのは、遺族の手で骨を砕く。骨を袋に入れて、その上から故人ゆかりの文鎮とかで。桂文珍とかじゃねーぞ。ゴルフクラブで叩いたり。粉々にするわけだから、そのへんに骨がゴロゴロしてるわけじゃない」
文鎮で叩くっていうのはまだわかるけど、ゴルフクラブで骨をぶっ叩くっていうのは、なんかいまひとつ気分よくないっていうか。そんなんで故人が喜ぶんですかねえ。
「故人がゴルフ好きだったらうれしいんじゃないの。ゴルフやらないから知らないけど」
ふうん。じゃあボスが散骨希望したら、盆栽の鉢で骨を砕いてあげますよ。
「やらなくていい! それに先週、君がいったように、わたしは妖怪になるまで生き残るつもりだから、君が先に死になさい」
なんですか、先週のことなんか根にもって。男らしくないなあ。まあいいや。じゃあ、わたしが死んだら、ボスが散骨してください。鴨川の魚に与えてくれ。なんちって。
「そんなことをしたら鴨川周辺の住民に迷惑がかかるだろう! そもそもどうして条例ができたかといったら、風評被害が怖いからだよ。そこからとれた菜っ葉とか、故人の魂が宿っているとかいわれるかもしれんし。しかしなんだって鴨川なんだよ」
だから親鸞聖人が自分の遺体を鴨川に流してくれっていったのの単なる真似ですよ。冗談ですがね。わたしはどっちかっていうと自分が有機物として分解されるよう、畑の堆肥にでもしてもらいたいんですが。とにかく、墓はいらん!
「畑の堆肥になるんだったら、そこの畑がどこなのかをあらかじめわたしに伝えておくように。わたしは、そんな畑の野菜は食わないから。それより、親鸞聖人がそんなこといったの? 本当?」
人の遺体をばい菌みたいに。なんかムカッとくるけど、まあいいや。親鸞聖人の件は本当ですよ、歎異抄かなんかに書いてあったんじゃなかったかと。それがし閉眼せば、賀茂河に入れて魚に与うべし。ただまあ、弟子が馬鹿だったらしくて、親鸞聖人の念願かなわず、立派な墓が建ってますがね。
「そうかあ、それは残念だったな。鴨川はガンジス河のように、聖なる河として信仰の対象になり、鴨川近辺の住民に大いに恩恵をもたらしたかもしれないのになあ」
ちょっと待て。わたしが鴨川の魚に与えられたら地元民の迷惑になって、親鸞聖人だと信仰の対象になるってのはどういうことですか! 死んでも差別されんですかっ。
「まあ人間なんてそんなもんだろ。君もそろそろ己というものを知りなさい。それよりも、だ。どうしていま、散骨がブームなのかについて教えておこう。決定的なのは、やっぱり家意識というのがなくなったせいだろうな。少子化が原因だろう。本来、長男はオヤジの墓に入っていい。次男の場合は、別に墓を作ることになっている。そして長男が家の墓を代々守っていくと。しかし、少子化になってしまったから、墓を守る人がいなくなった。だったら散骨でいいじゃないかということになった。
わたしのおふくろなんかも散骨希望だ。亭主の家の墓なんか入りたくもないし、散骨すれば金がかからん、金はアンタたちにやるんだから、といっている。んなもんいらないよ、豪華な葬式を出してやるといったんだが、アンタそんなのやったら祟ってやるわよといわれた。まあそういうのがだな、現在の散骨をとりまく状況であるというわけだ。わかったかな」
なんかよくわかりませんが、人の遺体を最後までよくも差別の対象にしてくれましたね! 許せん。見てろ、絶対にどこかの畑の肥料になって、ボスの口に入る野菜になってくれるわ!
しかし、我々はゴールデンウィークの真っ只中に、なんの話をしているんでしょうね、ボス。お盆はまだ先でっせ。
というわけで、今週の結論。
長沼町は、即時条例を撤回するように。散骨は地球に優しい埋葬法です。このままいくと、墓で日本が埋もれてしまう。それから遺灰を流される川や海の近くにお住まいの方は、いちいち、
「穢れ」
とかいって目くじらをたてるのはやめましょう。もしかしたらあなたのそばの川に流された遺灰が聖人扱いされる日がくるかもしれません。そしたらあなたの近所の川は一気に観光資源です。風評なんて、それまでの辛抱ですって。
で、うちの父は、東京湾に堂々と遺棄する、と。これで決まりだな。
それでは皆様、また来週。
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