2008.07.31
山崎マキコの時事音痴 文藝春秋編 日本の論点
●第163回●
とりあえずビール、という文化
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 ゲンダイネットニュースによると、ビールを飲めない若者が急増しているらしい。記事には「大手ビール会社社員」という人のコメントとして、こんなことが記されている。

「若者のビール離れは著しい。女の子だけでなく、男までが“ビールは苦くて、おいしくない”と言うんです。ウチにも、ビール会社に入社しておきながら、シレッと“ビールは飲めません”という若手社員がけっこういますよ。なんで入社を志望したんだか」

 この記事を目にしたとき、「あ、やっぱりそういう事態に至ったか」という思いがあった。記事では若者のビール離れの原因を「ひ弱だから」とまとめていたけど、そうじゃない。おおげさにいえば、もっと構造的な問題、いまのビールをとりまく現状がそうさせているように感じるのだ。
 去年の夏のことなんだけど、月刊アスキーの取材で軽井沢のヤッホー・ブルーイングのブルワリー(ビールなどを醸造する場所)を訪れる機会があった。このブルワリー、「よなよなエール」というヒット商品を世に送り出したことで知る人ぞ知るというところである。わたしはここのブルワリーのクラフトマンに半日かけて「ビール基礎講座」みたいのを叩き込まれることになったんだけど、このとき初めてビールというのは「エール」と「ラガー」の二種類に大別されることを知った。エールとラガーの違いというのは酵母の違い、発酵の違いにあって、エールの場合は上面発酵(比較的短時間に常温で発酵される)、ラガーの場合は下面発酵(それなりに時間をかけて、低温で発酵させる)となっている。で、日本の大手ビール会社が作っているのは、ほとんどが「ラガー」。世界的なシェアとしても、ラガーが90%ならエールは10%ぐらいらしい。味のほうはというと、大雑把にいえば、ラガーが喉越しを楽しむビールなら、エールは香りやコクを楽しむタイプのビールとなっている。このサイトを読んでいるビール好きのなかにはもっと突っ込んだ薀蓄のある方もあろうとは思うが、とりあえずこんな説明でご勘弁ください。
 エールというのは面白いもんである。まるでワインかなにかのように、「香りを嗅ぐ」という、普段わたしたちがラガーを飲むときにはない行為が楽しみのひとつになる。わたしはこのブルワリーを訪ねてからエールの世界に興味がわいて、去年の夏は、毎日違う種類のベルギービール(ベルギーはエールビールの種類が豊富です、念のため)を味わい、グラス類もそろえた。いままで抱いていたビールに対する概念が変わった年だった。それはまあいいのだが、その際にスーパーで酒類を扱う棚のまえを歩いていると、いつも思い出すクラフトマンの言葉があった。それは、
「大手のビール会社は、いま、自分で自分の首を絞めているようなもんです」
というものだ。
 いま、大手のビールメーカーは発泡酒の売り上げがいいからビールに近い味わいの発泡酒を多種多様に商品開発して売り出しているわけだが、
「あれを“ビール”と思って最初に口にした若年層は、ビール離れを起こすでしょう」
とクラフトマンは予言した。

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山崎マキコ自画像
山崎マキコ
1967年福島県生まれ。明治大学在学中、『健康ソフトハウス物語』でライターデビュー。パソコン雑誌を中心に活躍する。小説は別冊文藝春秋に連載された『ためらいもイエス』のほか、『マリモ』『さよなら、スナフキン』『声だけが耳に残る』。笑いと涙を誘うマキコ節には誰もがやみつきになる。『日本の論点』創刊時、「パソコンのプロ」として索引の作成を担当していた。その当時の編集部の様子はエッセイ集『恋愛音痴』に活写されている。
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