病気を治す最もポピュラーな方法は医者や病院へかかり現代医療の治療をうけることです。その現代医学の見地から、原因、症状検査、治療、予防、日常生活での注意など、さまざまな方向から検討していきます。ここでは狭心症を例にとってみましょう 。



病気編 循環器の病気 狭心症/心筋梗塞


心臓の冠状動脈
左右2本の冠状動脈が、心筋に必要な酸素や栄養を運搬している。血栓ができると、そこから先の心筋が壊死する

冠状動脈の状態
高血圧・糖尿病、タバコなどの危険因子がもとで、心臓の冠状動脈に粥状硬化(じゅくじょうこうか)が進むと、狭心症や心筋梗塞が起こる

心臓発作の前ぶれ
高血圧の人が、上のような症状を自覚したら心臓発作の前ぶれかもしれません。医師の診察を必ず受けてください

狭心症の痛みが起こるところ
狭心症の痛みは胸の中央部、肩、腕、歯、みぞおち、背中など広範囲に起こる

心筋梗塞の発作から死亡までの時間

 現在、日本人の死因でいちばん多いのががんで、2位を占めるのが心臓病です。心臓病で亡くなる人の数は、この30年で2倍にふえ、年間に140万人以上が命を落としており、特に中高年の男性がかかるケースが多くなっています。また、突然死のうちのかなりの数が、心臓病であることもわかっています。
 心臓病のなかでも、よくみられるのが狭心症と心筋梗塞(しんきんこうそく)です。この2つの病気は、いずれも心臓の血管の故障によって引き起こされるもので、虚血性心疾患と呼ばれます。

狭心症・心筋梗塞の原因
 心臓は、そのまわりをとりまく冠状動脈から、酸素や栄養をとり入れています。ところが冠状動脈の血管の内側にコレステロールがたまって動脈硬化を起こすと、血管が狭くなり、血液が流れにくくなって心臓に十分な酸素が供給されず、虚血状態になるのです。
 狭心症と心筋梗塞では、冠状動脈の狭窄(きょうさく)のようすが違います。
狭心症 狭窄のため、血液が流れにくくなった状態です。
心筋梗塞 狭窄部分に血のかたまり{血栓(けっせん)}がつまって血液が流れなくなり、心筋が壊死(えし)した状態です。
 狭心症の症状が起こったからといって、心筋梗塞に直接つながるわけではありません。また心筋梗塞の発作の前兆としては、必ずしも狭心症の症状があらわれるともいえません。しかし、心筋梗塞の発作を起こした人のうち54%が、以前に狭心症と診断された経験をもつというデータもありますから、注意する必要があります。

狭心症の症状
 狭心症の痛みは、軽いものから激しい痛みまでさまざまです。●もやもやした弱い痛み、●締めつけられるような痛み、●死ぬのではないかと思うほど激しい痛みなどです。しかし、チクチクした痛みではありません。
 痛む時間は短く、5〜6分から長くて10分以内というのも狭心症の特徴です。
 痛みは体のあちこちにあらわれ、その場所も指で示せるようなはっきりしたものではありません。
胸のまん中の痛み 心臓の実際の位置は胸のほぼ中央です。胸のまん中、胸骨を中心に前胸部に痛みを感じます。
肩や腕の痛み 胸の痛みが左の肩から腕にまで伝わって痛むケースで、放散痛といいます。
あご、歯の痛み 放散痛が、首から上にあがった場合の痛みです。背中が痛むこともあります。
みぞおちの痛み 胃の病気と間違えやすい痛みで、胃に異常がなければ、狭心症の可能性があります。

狭心症の種類
 狭心症は、発作の起こり方によって、労作性狭心症と安静狭心症に区別されます。
労作性狭心症 運動や、何かの動作で心臓に負担がかかったときに発作が起きます。●階段を上る、●運動、●温度差の激しい場所への急な移動、●興奮・緊張、●入浴、●飲酒など。
安静狭心症 特に体を動かさないのに、血管のけいれんによって発作が起きます。夜寝ているとき、突然発作を起こしたり、夜中から早朝にかけて、何回も痛みがくることがあります。
 狭心症のなかでも、心筋梗塞に移行しやすいものに、不安定狭心症や異型狭心症があります。次のような症状があったら、正確な診断を受ける必要があります。
不安定狭心症 発作を起こすたびに症状が悪化する狭心症です。●軽い動作でも発作がある、●発作の痛みが長びく、●痛みが強くなった、●発作の回数がふえた、●ニトログリセリンなど、薬の効き目が悪くなったなどのときは、適切な治療が必要です。
異型狭心症 冠状動脈のけいれんで起こる狭心症で、夜寝ているときに発作があります。
 また、自覚症状がないままに病気が進み、突然、心筋梗塞の発作が出るものとして、無痛性虚血性心疾患があります。

狭心症の診断
 狭心症は、発作が起きている最中に診察することがむずかしいため、正しい診断を下すためにはいくつかの検査を必要とします。
 通常の暮らしをしながら、24時間連続して心電図を記録する装置を体につけて検査します。自覚症状が真の狭心症かどうかを診断することができます。
運動負荷試験 発作が起こるのを待たずに、医師の前で運動をして心臓に負担をかけ、心電図の異常を検査する方法です。●マスター2階段試験(2段の階段を昇降する)、●トレッドミル検査(動いているベルトコンベアーの上を逆に歩く)、●エルゴメーター検査(自転車のペダルをこぐ)の3つがよく行われます。
核医学的検査 塩化タリウム心筋シンチグラムは心筋の局所血流分布を反映し、特に運動負荷を行うことにより、虚血部や小さな梗塞部を明らかにできます。
冠状動脈造影 どの部分の血管が狭くなっているかを具体的に見る方法です。腕や大腿部(だいたいぶ)の動脈から冠状動脈にカテーテルを入れて、x線に映る造影剤を流し込み、フィルムに撮って観察します。

狭心症の治療
 発作が起きたら、とりあえずの応急処置をして、発作を止めます。日常的には薬の服用、さらには手術で治す方法があります。
安静 動作の途中で発作が起きたら、すぐに動作をやめて、立ち止まる、座るなど安静にして、できるだけ早く発作を止めます。
 狭心症の薬は、ニトログリセリン、ニトロールなどの硝酸薬です。舌下で溶かして吸収させる舌下錠が一般的で、発作のときに使用すれば痛みは1〜2分でおさまります。次の発作を予防する効果もあります。
 そのほか、β(ベータ)遮断薬やカルシウム拮抗薬をはじめ、冠動脈内血栓を防止する目的でアスピリンなどの血栓防止薬も使われます。
心臓日記 発作のようすを、●いつ、●どこで、●どんなふうに起こったか、●痛みの場所や痛み方、●そのときの薬の飲み方や気がついたことをメモしておけば、診断・治療の参考になります。
手術 血管の狭窄の程度や部位、狭窄部の数などに応じて、バルーン療法(ptca)やa−cバイパス手術が行われます。
 バルーン療法は、大腿部や腕の動脈から、先端に風船のついたカテーテルを差し込み、狭窄部分で風船をふくらませて動脈を広げる方法です。狭窄が1〜2か所の場合によく用いられます。
 a−cバイパス手術は、自分の大腿部の静脈や内乳動脈を切りとり、狭窄を起こした冠状動脈にかわるバイパスをつくる方法です。バイパスは何本でもつくれるので、狭窄部分が数か所にわたるようなケースに効果的です。

狭心症発作の再発防止
 規則正しい生活が第一です。
医師の指導 心臓の具合を正確に知るためには医師の診断が不可欠です。発作がおさまっても、必ず受診します。また、狭心症には、先にあげた薬がたいへん有効ですが、その飲み方にも医師の指導は欠かせません。発作がなくても定期検診は受けましょう。
ひとり歩きを避ける 特に初めての発作のあと、しばらくはひとりで外出などしないほうがよいでしょう。いつも誰かについていてもらうようにします。
日常生活 心臓に負担がかからないように注意します。喫煙は特によくありません。もちろん肥満は是正すること。食生活では脂肪、塩、酒を控えます。適度な運動、気分転換なども大切です。

心筋梗塞の症状
 突然痛みにおそわれる心筋梗塞(しんきんこうそく)の症状は、次のようなものです。
激しい痛み 胸が急に痛みます。締めつけ感、重い物をのせたような圧迫感、焼け火ばしをあてられたような灼熱感(しゃくねつかん)などを訴え、死ぬかもしれないと思うほどです。
痛みが続く すぐに痛みがおさまる狭心症と違って、心筋梗塞の激痛は30分以上も持続します。
胸の中央が痛む 痛みの場所は狭心症の場合と同じで、胸、みぞおちのあたり。放散痛として肩や腕、首が痛むこともあります。
胸を押さえてうずくまる 心筋梗塞の発作を起こした人は、胸を押さえてうずくまってしまいます。顔色はまっ青で、冷や汗をかいたり、とても苦しそうな表情になります。
けいれんや失神 ときには、けいれんを起こしたり、意識を失うこともあります。
 このように、本人も、周囲の人から見ても、たいへんな病気だと思われるような症状が出ますから、すぐに専門医の診断、治療を受けなければなりません。

心筋梗塞の診断
 診断の決め手になるのは、症状、心電図、血液検査、超音波検査の4つです。
症状 恐怖心を伴うほどの激しい痛みが持続するのが特徴です。
心電図 心筋梗塞の場合、特有の波形パターンがあらわれ、心筋が壊死(えし)した場所や時期、程度もわかります。
血液検査 心筋が壊死したとき血中にもれ出す心筋細胞の中の酵素(cpk・mb、got)や心筋ミオシン軽鎖、トポロニンtを測定します。
超音波検査 体の外から心臓に向けて出した超音波の反射のようすで、心臓の状態や壊死の部分を調べることができます。

心筋梗塞の治療
 心筋梗塞は死亡率が40%、そのうち70%は発作を起こしてから1〜2時間で亡くなるという、たいへん危険で急を要する病気です。
すぐに病院へ 心筋梗塞と思われる発作が起きたら、すぐに主治医または救急隊に連絡して、専門医の治療を受けます。119番に連絡するときは、心臓発作であることを告げ、住所や名前をはっきり伝えることが大切です。
ccu 集中治療室のことで、24時間体制で医師が常駐して、病状の急変に対応できるシステムが完備しています。心筋梗塞の場合、ccuにまず運び込まれるケースが多いのです。
手術 大腿(だいたい)や腕の動脈からカテーテルを差し込み、冠状動脈にできた血栓(けっせん)を溶かす薬を流し入れるptcr、a−cバイパス手術などがあります。
 心筋梗塞では、左室瘤(さしつりゅう)、僧帽弁逆流、心室中隔穿孔(しんしつちゅうかくせんこう)、心臓破裂などの合併症があらわれることがあります。そのときには、合併症そのものの手術やa−cバイパス手術がすぐに行われます。
 血液が固まるのを抑えて血栓をできにくくする抗凝固剤、脈の乱れを防ぐ抗不整脈薬、痛みをとる薬などが用いられます。

心筋梗塞の生活上の注意
 手術や薬の進歩によって、心筋梗塞から立ち直るケースがふえています。再発防止、社会復帰のためには、日常生活における注意が欠かせません。
定期検診 医師による診察を続けていれば、小さな変化も見逃さず、早めの処置ができます。
日常生活 食生活を中心に、心臓に負担をかけない規則正しい生活をします。
 狭心症も含めて、心臓病にかかった人は、健康だったころよりも用心深くなり、必要以上に安静に暮らすようになりがちです。しかし、心筋梗塞にかかった人でも、約80%が発病前と同じ程度まで回復し、なかにはゴルフやテニスができるほど元気になる人もいます。
 もちろん、定期検診や医師のアドバイスは欠かせませんが、社会復帰は十分可能なのです。

狭心症・心筋梗塞の予防
 虚血性心疾患にかからないためには、その直接の原因となる動脈硬化を防ぐことが大切です。
 動脈硬化を引き起こす危険因子として、代表的なのは次の6つです。このうち3つ以上にあてはまる人は要注意です。[1]高血圧、[2]高コレステロール血症、[3]タバコ、[4]肥満、[5]糖尿病、[6]ストレス、疲労。
 これらの危険因子は、日ごろの注意で解決することができます。
食事 動物性脂肪を減らし、食べすぎないように注意します。塩分やアルコールも控えめにします。
ストレス ストレスや疲れをためないように、気分転換に心がけ、心身をリラックスさせる方法を工夫しましょう。睡眠は十分にとります。
運動 適度な運動はストレス解消にもなり、心臓を強くします。病気の人や健康に不安のある人は医師の指導のもとに行います。
定期検診 自覚症状はなくても、心臓病の発症率が高くなる40歳代になったら、定期的に検診を受け、危険因子があったら、未然に芽をつみとっておくことが大切です。



狭心症と心筋梗塞の発作の違い

狭心症 心筋梗塞
どんな痛みか もやもやする弱い痛みから激痛まで、痛み方に個人差がある 激痛。そのまま死んでしまうのではないかという恐怖感をもつ。呼吸困難、冷や汗、吐きけなどがある
痛みの続く時間 5〜6分。長くても10分以内 狭心症の場合より長い。30分以上〜数時間
ニトログリセリン 効果がある 効果がない

●飲酒家は心筋梗塞にかかりにくい[1] アルコールを飲んでいる人のほうが、心筋梗塞にかかりにくいという調査報告がいくつかある。

●飲酒家は心筋梗塞にかかりにくい[2] アルコールは善玉コレステロールをふやすことが知られている。