2005.08.25
山崎マキコの時事音痴 文藝春秋編 日本の論点
第 回
夏休み番外編2 選挙って頭が痛いよね
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 ボスがあいかわらず怠けている。
「こないだみたいにさあ、自力でなんか時事ネタ書いてよ。選挙なんかどうよ? ほら、ホリエモンが出るじゃない。あ、わかってると思うけど、ホリエモンに投票はできないからな。選挙区が違うんだよ、え、知らなかった? どうしょうもねえなあ。ま、とにかくわたしはいま、体調悪いんで」
 なんかそういって放り出された。
 わたしは二十代のころボスのもとで働いていたことがあるのだが、ボスという人は、
「自分にとって面倒なこと」
がもちあがると、なぜか都合よく心臓の発作を起こす人だった。
「うああ、く、苦しい。わたしはもう駄目だ。帰らせてもらう」
 ボス、原稿書いてください。みんなにつめよられると、うああ、心臓がーっ、と叫んでよく倒れた。あれがしきりに思い出されるのは何故なんだろう。酒ばっか飲んで、堕落した社会人生活を送っているうちに仕事がたまっちゃって、モチベーションが下がったまま、例によって逃避行動に出た、とそんなところだと思うけど。
 ま、それはさておき。困ったのは選挙である。
 新聞もとらなきゃテレビも見ないので世間の風で感じるしかないのだが、どうも選挙が近づいているようなんである。
 わたしは今回、ボスに尋ねるつもりだった。というか尋ねた。
「わかった、今回もまた自力で書きますから、ボスお願い。一個だけ教えてください」
「なんだ」
「わたしは、どこの党に投票すればいいんですか? それだけ教えてくれたらもうあとはどうでもいいから」
「そんなの知るか! 君はそもそも投票権というものをなんだと心得ておる。ひとりの成熟した社会人としての判断をぶつけなさい」
 そんなもんがあったら「時事音痴」なんて連載はしてないんである。
 困った。本当に困った。
 前回の選挙では、民主党の選挙事務所に行って、「マニフェスト」っていうのを貰ってきた。読んだ。よくわかんなかった。それからネットで各党派がなにをいってるのかを読んでみた。よくわかんなかった。どうしたらいんだべえと検索をかけていたら、なぜかわたしの知り合いが、ある党派のサイトで紹介されていた。栃木太陽の会の代表、信末清さんって人だ。わたしゃテレビを見ないんでよくわからないんだが、モスバーガーのCMにも信末のオヤジさんは出ていたらしいから、論点の読者の方のなかにもご存知の人もいるかもしれない。
 信末のオヤジさんは、わたしの農業系の知識における師匠みたいな人だ。中温発酵という、非常に利にかなかった堆肥作りを長年おこなっている。わたしの知る限りでは、日本一の堆肥作り男である。で、信末のオヤジさんの凄いところはそれだけではなく、自分がせっせとこさえた堆肥をまわりの農家に、なんと10年間にわたって無償であげつづけた。欲しいだけ。
 そうこうしているうちに、まわりの農家は土壌改良されてしまい、化学肥料と農薬漬けの農業から脱することができた。それが栃木太陽の会という、一大有機農業団体に発展したのだった。そういう大きな男なんである。
 で、前回の選挙のときは「みどりの会議」だったかな? そこが信末のオヤジさんの活動している様子をサイトにアップしていたので、この党はオヤジさんの味方なのだと解釈してそこに投票することにした。
 しかし、見事に死に票になった。
 しかもその党の代表である「木枯らし紋次郎」を演じた役者(本名が思い出せない)も落選したので、党自体が解散しちまった。目もあてられない選挙結果であった。
 今回はもう「みどりの会議」だかもないし、わたしはどうしたらいいんでしょう。そこをボスに教えてもらいたかったんだけど、ボスはシラネというし。迷える子羊をだれか救ってください。
 前回の選挙でも結論に達するまでにエラく困って、夫のまえで、
「もういっそのこと、唯一神、又吉イエスに投票しちゃおうかなあ。投票しないと地獄に落ちるっていわれるしぃ」
とつぶやいたら、本当にそれが正しいと考えてそう行動するならそれもいいだろうけど、もし面倒で思考を止めただけだというのなら人間としてクズだ、みたいなことをいわれたんで、泣く泣く考えたのである。今回もそれを繰り返すのか。選挙権って本当に面倒である。



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山崎マキコ自画像
山崎マキコ
1967年福島県生まれ。明治大学在学中、『健康ソフトハウス物語』でライターデビュー。パソコン雑誌を中心に活躍する。小説は別冊文藝春秋に連載された『ためらいもイエス』のほか、『マリモ』『さよなら、スナフキン』『声だけが耳に残る』。笑いと涙を誘うマキコ節には誰もがやみつきになる。『日本の論点』創刊時、「パソコンのプロ」として索引の作成を担当していた。その当時の編集部の様子はエッセイ集『恋愛音痴』に活写されている。
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