2005.04.28
山崎マキコの時事音痴 文藝春秋編 日本の論点
第 回
特定外来生物被害防止法に万歳!
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 このように、ボスに激しく同意するわたしは、バス釣りをしたことがある。
 その問題の河口湖でですよ。
 真冬でした。寒かった。雑誌の企画だからしかたがなかった。池に氷が張っていて、それを割りながらボートで進んだ。湖上の風は死ぬほど寒かった。
 その企画というのは、ゲームボーイを魚群探知機にできるっていうアイテムをバンダイが売り出しまして。それが使い物になるか試しに行こうっていう。バスプロって人のボートに一緒に乗って、我々はその魚群探知機を使い、彼は本物の魚群探知機を使い、釣果を競い合うっていう……。
 もうね、どうしようもないアホ企画で。丸一日使って釣れたのは、そのプロが意地で釣った1匹だけ。そもそも真冬にバスって駄目らしいですがね。死ぬかと思いましたよ。その企画の恨みでバス釣りを憎んでるわけじゃないし、バスプロの人はいい人だったから言いたくないけど、なんで釣りをするだけで食っていけるんじゃ、そこがまず間違ってるだろ! なんだよ、だいたい、“バスプロ”っていうのは。
 そんなプロをあがめてる世の中っていったいなによ?
 だったら大間のマグロを釣り上げてる漁師さんに、“マグロプロ”っていって賞金あげたらいいじゃん。大変らしいぞ、大間のマグロ釣るのだって。そこのバス釣り人間、おまえちょっと大間に行って、すぐにマグロ釣れるかやってみろよ。やれないから。
「しかしな、君、バスに対してはだいぶ鼻息が荒いが、なんでもベランダでとんでもないものを栽培しているらしいではないか。うちの編集部員からちょっと聞いたぞ。なんなのだ、それは」
 ぎく。え、その話をしなくちゃならないんですか?
 わかりました……白状しましょう。わたしはもしかしたら、法に触れるようになるかもしれないものを、いえ、すでに一度は法を犯しているものを、育てています。
「ちなみにセイタカアワダチソウは特定外来種に指定されるが。それではないよな。で、法に触れるかもしれないっていうと、アレか?」
 いえ、想像されているようなブツではありません。ただ、爆発的な繁殖力があるんです。自分で育ててみてわかったんです。我が家のベランダは1週間水をやらなくても生き残れないといけない、砂漠のように過酷な環境にあるんですが、ほとんどの草花が枯れていったなかで、唯一、ニセアカシア、コイツも駆除が大変な木らしいですが、ソイツとアイツだけが生き残ったんです。なにかと白状いたしますと……友人で「イチゴ」の研究をして博士号をとったヤツがいまして。ソイツがイギリスの山のなかで種が同定できなかった謎の野生イチゴを、検疫の目を盗んで日本に持ち帰ったという、まったく正体不明の野イチゴなんです。
 コイツが、いくらでも増える。
 ヤツも、あんまり増えすぎて手に余って、
「引き取ってくれたらうれしいんだが」
と株分けしてきたんですがね。ソイツです。もう、どう放っておいても、どんどん増える。いま、花が咲いてます。白い花が。花盛りです、うちのベランダ。しかしわたしは自分が死ぬときに、ベランダに火を放って死のうと思ってますよ。だってこれが野に放たれたら、日本の野いちごが姿を消す可能性がありますもん。そういう繁殖力なんです。
「けしからんな。聞き捨てならんな。君らは最低だな。で、それは食えるのか?」
 はあ。一応ですね、実がなるので、人体実験のつもりで食べてみたところ、毒はないようだし、けっこう甘みが強いんですよ。
「本当にないのか? 大丈夫なのか? インターネットとかで調べても、そのイチゴが毒かどうかは調べられないのか」
 イチゴの研究で博士号をとった専門家が調べられなかったぐらいですから、ド素人には無理ですよ。でも大丈夫です。もう何年もわたしが食べてて生きてますから。で、なんでそんなこと聞くんですか。
「いや。来るべき食糧難時代のために、株分けしてもらおうかと思ってな。ほら、わたしはピーナツを食糧難のときのために栽培している。そのときに丈夫なイチゴがあってもいいかと思ってな」
 あのですねえ、いつも酔っ払うとすぐ「食糧難時代がやってくるからわたしはピーナツを」って話し出しますけど、ボスが生きているあいだに食糧難時代なんてやってきませんから! いつまで生きるつもりですか? 妖怪になるまで生きるつもりですかっ。株分けなんてしませんよ。こうやってじょじょに広まっていった結果が、いまのバスじゃないですか。食糧難時代になったら、ボスはバスでも食っててくださいっ。
 というわけで結論。来るべき食糧難時代に備えるためにも、また、日本の生態系を守るためにも、ブラックバスをみんなで食べる習慣をつけよう。わたしは食べないけど、みんなは食べろ。とくにそこで釣りしてるヤツ、あなたは食べろ。
 特定外来種を利用する方法を、みんなで考えよう。
 ちなみにわたしは、マングースの利用法なら考えてある。油絵の筆でマングースの毛を使ったヤツというのは1本4000円ぐらいする。油絵の筆なんて、ちょびっとしか毛を使わないのに。というわけで、沖縄の皆さん、マングースの毛の筆を作ろう。いい金儲けになると思うよ。


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