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3・11と原発事故
いま、すべての日本人が考えるべきこと
■菅直人の決断を本当はどう評価するのが正しいか ■山折哲雄はこう考える
■欧州なら「撤退」もあり得た ■廃炉と再稼働 なぜ日本人は何も決められないのか
■官邸前20万人デモの衝撃 ■義捐金 本当に困ってる人に届かないこの国のシステムについて
■不公平で何が悪い  
「日本が滅亡してしまう」。大げさではなくそう思えるほどに過酷で、甚大な災害、そして事故だった。ただ、失ったものばかりではない。明日に繋がる教訓も得たはずだ。識者たちと振り返る再出発の日。
第1部 東電の決死隊に「撤退するな」「国家のために死ね」と言った
菅直人の決断を本当はどう評価するのが正しいか

山折哲雄はこう考える
「事故はどんどん拡大していくのに、原子力安全・保安院、原子力安全委員会、東京電力の誰も何も見通しを言ってこない。『事故はどこで止まるのか? どこまで拡大するのか?』私は一人、官邸で必死に考えていました」

 2011・3・11……東日本大震災に端を発する未曾有のシビアアクシデントを振り返るのは、当時の原子力災害対策本部長――総理大臣であった菅直人氏だ。

 彼が「決断」を迫られたのは3月15日午前3時。

 海江田万里経産大臣と枝野幸男官房長官はこう相談をもちかけてきたのだった。

「東電が『撤退したい』と言って来ています」

「撤退と聞き、それまで一人で考えていた最悪の事態について、初めて閣僚や補佐官に話しました。『撤退し、原発を放棄したら5000万人もの国民に避難を強いることになるかもしれない。そうなれば国として成りたたない。それほどの事故なんだ』と」(菅氏)

 当時、菅氏がヘリで福島第一原発を訪問した際に、「現場を混乱させた」と叩かれたことはあったが、「撤退はまかりならぬ」との決断に異議を唱える者はなかった。だが時が流れ、冷静になって振り返ってみると、「菅氏の決断」は大きな矛盾をはらんでいた。

 宗教学者の山折哲雄氏は、雑誌や新聞の取材等でこんな疑問をなげかけている。

〈腑に落ちなかったのは、現場で危険な作業にあたっていた人々の生命の状態についてほとんど議論が及んでいなかったことである。あえていえば、「撤退」論や「退避」論のなかで、犠牲という問題が正面からとりあげられていないらしいことだった〉〈全員撤退させるという選択肢があると私は思っています。そうすると、放射能が全国にばら撒かれる。放射能にはリスクが伴う、しかしそれによるリスクは国民全体で引き受けよう、そういう視点がいまわれわれの社会にはない〉

 問われているのは、いかに非常時とはいえ、民間企業である東電の作業員の退路を総理大臣が断ち、「国家のために死ね」と犠牲を強いる権利があるのかという根本的な問題だ。これは逆に言えば、原発を稼働させ、その恩恵を受けてきた以上、いざというときはそのリスクを国民全体が受けるべきか否か、という問いにも通じる。菅氏が答える。

「山折さんが言っていることは非常に重い。撤退という選択肢もあっただろうということと同時に、撤退したことで起きるどんなことについても、受け止めるという覚悟も含めて、彼は言っているわけです。原発事故という国家の危機。ギリギリのときにどういう選択をするのか。これは重要な議論だと思います」

 そのうえで、菅氏は自らの「決断」の背景について、チェルノブイリのケースを挙げながら、こう説明した。

「チェルノブイリは1基だけ暴走して爆発した。大変な事故ですが1基だけなんです。福島の場合は第一サイトで6基。同じ第一サイト内に7つの使用済み核燃料プールがある。そして12km先の第二サイトには4基、プールも4つある。もし全員が退避し、コントロールできない状態になれば10基の原発と11の使用済み核燃料プールが順次、干上がり、メルトダウンする。チェルノブイリの何十倍もの放射性物質が放出されるのです。

 よく命懸けという言葉が使われるけど、本当の意味で命を懸けてやらざるをえない。これは責任者である私もそうだし、現場の作業員もそう。総理大臣というのは最後の最後、決めなきゃいけない。そういう立場なんだよね。それに伴う責任もすべて私にある。権限は責任と一体ですから。

 今回、急性被曝で亡くなった人はいなかったが、私の決断でそういう人が出る可能性もあった。逆に撤退を決断していたら、今頃は東京に誰も住めなかったかもしれない。そうなれば、近隣諸国にも被害が及ぶ。『我々は避難します。ご迷惑かけて申し訳ない』とは言えないんだよ。国家として、責任が果たせなくなる」














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