国民的大論争 何でも分かることは幸せなのか、不幸なのか
生まれる前に「奇形」「異常出産」が分かる 出生前の「遺伝子検査」やってみて分かること
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■我が子を「選別」しなければならなかった親たちの苦悩 |
■ダウン症がすぐにわかる |
■これは医学の進歩なのか |
■医師が妊婦を誘導する |
■あまりにも重い選択 あなたに耐えられますか? |
■知る不幸と知らない不幸 |
■倫理が追いつかない |
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親というものは、子どもの未来を思うときに最も幸せを感じる生き物だ。しかし、まだ生まれてさえいない我が子の未来が多難であるとわかったら――。時に残酷な結果をもたらす最先端医療に、親たちはどう向き合うべきか。 |
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第1部 生むべきか、堕ろすべきか
我が子を「選別」しなければならなかった親たちの苦悩
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ダウン症がすぐにわかる
「先生から、『21トリソミー(ダウン症)です。突然のことで驚くと思いますが、お生みになるかどうか家族でしっかりと話し合って決めてください。ただ時間がありませんから、できるだけ早く決めてください』、そう淡々と説明されました。
ダウン症の子が生まれれば、仕事はやめないといけません。実家は遠いし手伝ってくれる人もいない。育てられないと思いました」
A子さんは、37歳で第2子を妊娠。高齢出産ということもあり、18週目で出生前診断を受けたところ、お腹の子どもがダウン症であるという結果が出た。
「羊水検査を受けた後で町に出かけたとき、女性が自分より大きなダウン症のお子さんを連れて歩いているのを見て『私にはこんな覚悟ができるだろうか』と悩みました。夫は、上の子の結婚や仕事にも影響するかもしれないと考えていたようです。
中絶手術に踏み切ったのは、期限ぎりぎりの19週目でした。手術が終わった後は、何か大きな罪を犯したような気持ちになり、眠れない日が続きました。もし会社の同僚に中絶を知られたら、人でなしと言われるんじゃないかって……。
立ち直ったと思っても、やはり出産予定日だった時期が近づくと『申し訳ないことをした』という思いがこみ上げてきます」
そう話すA子さんの目からは、いつしか涙が溢れていた。
35歳のB子さんの場合は、第1子の出生前診断が「18トリソミーの確率が64分の1」という結果だった。18トリソミーとは、18番染色体が3本ある先天性疾患のこと。心臓や腎臓などに重い奇形が生じ、1歳までに9割が亡くなるという難病である。
「そんな病気があることさえ知らなかったので、赤ちゃんの詳しい症状や余命のことを先生から聞いたときはショックを受けましたね。
半数以上が流産になるということも説明されたのですが、どうしても中絶を決意できなくて。そうして夫と迷っているうちに、中絶できる時期を過ぎてしまいました」
消極的な選択ではあったものの、最終的にB子さん夫妻は生むことを決意。しかし、7ヵ月目を過ぎた頃に赤ちゃんは早産となり、生後数日のうちに亡くなってしまう。
「中絶を諦めてからはずっと『この子を無事に生むんだ』と自分に言い聞かせていたので、精神的な反動もその分大きかったんだと思います。退院して自宅に戻っても、しばらく食事が喉を通りませんでした。
中絶しなかったことについては、後悔していません。『決められないというのも一つの決断だから』と先生は慰めてくれました。ただもしかすると、もっと早い段階で中絶を決めていた方が、心身の負担は少なかったかもしれない」
いま、出生前診断が大きく変わろうとしている。簡単で精度の高い新型検査の解禁が、その理由だ。これは母親の血液に含まれる胎児の遺伝子を分析し、ダウン症や奇形など、遺伝子の異常による先天性疾患の有無を調べる方法である。
従来は、まず予備検査として「母体血清マーカー検査」を受け、そこで何か異常がある可能性が出た場合、お腹に針を刺して羊水を採取する「羊水検査」を受けるというのが出生前診断の流れだった。
「母体血清マーカー検査」では、胎児の遺伝子を直接調べるわけではない。そのため「お腹の子がダウン症の可能性は30分の1」というふうに、確率でしか結果が分からないのが難点とされていた。新しい検査法ならば、母親の採血だけで胎児の遺伝子そのものを調べられる。妊婦に負担をかけずに、ずっと正確な診断が下せるのだ。
「羊水検査では、約300分の1の確率で流産する可能性があります。新しい検査法を使えば、必要のない妊婦にまで羊水検査を受けさせなくて済むようになり、流産の危険を減らせる。この点では、優れた技術といえます」(武久レディースクリニック・佐藤孝道医師)
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